二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 花色彼女* 06. ( No.49 )
- 日時: 2012/08/13 09:31
- 名前: さくら (ID: noCtoyMf)
- 参照: http://www.kakiko.cc/youtube/index.php?mode
06.
この時間が楽しくなかったと言えば、嘘になる。逆に、愛しさを覚えるくらいだった。
06: { エメラルドは桜色だと言い張るエリスのくちびる }
態とらしく新しい彼氏と言った美里っち。もう新しく作ったのだろうか。否、美里っちくらいの美貌なら容易いだろう。
って、今はそういう事では無くて。
新しく彼氏を作ったとは言えど、嘘かもしれない。俺に、諦めて貰う為のデマかもしれない。
そんな事を思ってしまうのは、まだ俺が美里っちに出来た「新しい彼氏」を見た事が無いからと、まだ俺が美里っちの事を諦めて居ないからだ。
本当に、美里っちに言われた通り、往生際が悪いッスね。バスケ以外でこんなんになってしまったのは初めてッス。
そんな事を考えながら、一人教室へ向かうと何やら声が聞こえた。
「はあ、本当に私にはベランダの花の水遣り係りが似合ってるんだ」
まるで自傷する様な、ははっと乾ききった笑い声も共に聞こえてきて、一人何をしているんだと興味が働き、俺は教室を覗いていた。
だが其処には誰も居ない。空耳?否でも確かに聞こえた。
『私にはベランダの水遣り係が似合ってるんだ』———ふと脳裏に言葉が蘇り、一つのある特定の場所を絞り込む事が出来た。
ベランダ?
ゆっくり、足音を立てない様に近づいて、開いた窓から様子を伺う。
すると俺の予感は確信へと変わった。どうやら当たりだった様だ。
そして、俺の黄色の花を手に取り、優しい目で微笑んだ彼女に思わず息を呑んだ。
「ああ、君は本当に綺麗な色をしているね」
「そうッスね。因みにその花俺の花なんスよ?」
「うん。黄瀬君の花は、花まで凄い綺麗な黄色をしているよー!」
小さい胸の高鳴りを何とか抑えながら、目の前の、白李さん、だったっけ。の返事を返す。
吃驚するかな、とわくわくしていたが、返って来たのは吃驚も焦りも感じていない、割と普通の返事だった。
ただ、この時から俺は彼女に想いを抱いていたなど、この時の俺はまだ知る由も無かった。
少し此方を向いて、頬を赤らめえへへと頬を完全に緩ませて笑う彼女。此方まで頬が緩んでしまう笑顔だな、と思った。
すると突然、
「ぎょ、ぎょひいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「う、うわっ!ちょ、どうしてジョウロ投げるんスか!」
「き、きききき黄瀬君ッ!!??」
何処からそんな声が出せるのか、女子とは思えない奇声をあげたかと思うと、同時に手に持っていたジョウロを凄まじいスピードと威力で投げてきた白李さん。
な、何なんだ。俺でさえも取るの危うくなったッスよ。
それを見た白李さんは、「き、きききき黄瀬君ッ!!??」と焦って震えてどうしよう、どうしようと頭を抱え始めた。
すると何を思ったのか、急に此方を向いてごめん、ごめんね!ごめん、ごめんなさいいい!!!と挙動不審に謝ってきた白李さん。何やら自分では気づいていないのか、心の声だと思われる声が聞こえた。
明らかに不審過ぎる。俺の予想を遥かに超えた白李さんの言動。本当に、面白い子だなあと思ってしまえば、もう出て来るのは笑いだけだった。
それから、苗字を呼べば神に拝む様に喜びだして。本当に表情がころころ変わる子ッス。
白李さんとは同じクラス。クラスの白李さんと言えば、皆に優しくて、それ程目立つ存在じゃ無かったけどやる時はやって、友達思いで友達が多い子だった。
少し謙虚過ぎるし、何時も楽しそうに笑ってて。俺の友達にも白李さんの事が好きって言う奴は何人か居た。
俺には美里っちが居たから、どうと思う事も無かったけれど。特別可愛いって訳でも無いし綺麗って訳でも無い。勉強は結構出来るけど運動神経も平均位。
俺にとって、否、今までの俺にとっては白李さんとは、何処にでも居る女子、と思っていた。
だが少し見直したのが入学して月日が大分過ぎた頃。忘れ物を教室に取りに行った時、誰かの人影が見えたから様子を伺ってみた。
中には同じクラスメイトの白李さんが居て、一人残ってベランダや教室の花の世話をしていた。
その時に俺は忘れ物と言って教室に入っていく勇気が持てなかったのを覚えている。それから俺は彼女に興味を持ち、彼女の事について少しだけ、友人に聞いてみた。
『ああ、白李さん?あいつ、花好きらしくてさ。頼まれても当番でも無いのに、放課後毎日残って花の世話して帰ってるらしいぜ。本当、もの好きだよな、んな事やったって何も貰えない事分かってる位なら、早く家帰ればいいのに』
「白李さんは、毎日放課後に残って一人でベランダの花に水やってるよね。皆がしない事を黙って引き受けたり、凄い優しい子だなって思ってたんスよ」
「私、花好きだし。それに幾ら皆がしたがらない事でも、皆の役に立てるって気持ちが良いんだよ?」
「優しい子ッスね、やっぱり」
不意に俺の口から出た言葉に吃驚した。
でも思っていたのは本当だ。
俺と花の話をしている白李さんの顔が、夕日に照らされて眩しかった。
俺がまた来ると言った時の白李さんの笑顔は、今までで一番綺麗で、まるで花が咲き誇った様な笑顔だった。俺自身、クサい事を言っているとは自覚している。だけど、その表現が一番しっくり来た。
彼女は、笑うと飛び切り美人になる。色素の薄い栗色の綺麗な絹髪、笑った時に見える、縁どられた長い睫毛。ほんのり赤くなる頬。桃色の血行の良い唇から見える白い歯。
全て、この世のものとは思えない位綺麗だった。こんなに白李さんを食い入る様に見たのは初めてだ。本当に、笑顔が綺麗で目が離せなくなる。
急にどくん、と心臓が動いたのに、俺はまだ気付かない。
こんなに、美里っちも劣る綺麗な笑顔を見せつけられたのに、まだ美里っちが心の中に居るのは、好き、とか言う感情では無く、俺の変な意地なのかもしれない。
この時、俺は新しい恋を覚えた。
只、気がついて居ない、だけで。
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