二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

  花色彼女*  03. ( No.32 )
日時: 2012/07/26 18:07
名前: さくら (ID: noCtoyMf)
参照: 今まで黙っててごめん。実は俺、赤司様のハサミだったんだ(バッ

03.




 今まで失恋した事なんて何回もあった。その度にもうその恋に終止符を打って、落ち込んで、新しい恋を探して、新しい恋に巡り合って。
 だが今回はちょっとばかり違った。私はまだ黄瀬君の事が好きだったからだ。何度も何度も自分に言い聞かせて忘れようとした。だが私の頭の中はまだ黄瀬君でいっぱいで。
 これがファンとしての心なのか。否、それは違う。ちょっと違うんだ。要するにまだ諦めきれない。こうなればまだこの恋は終わらない、彼の事が好きで好きで堪らないんだ。

 けど現実がそんなに甘くない事なんて分かっていた。




03:{ 午前二時、まさかのハンナ、ミルクティーは雪色 }




「あああ、もう君等しか居ないんだよー。あんなお姫様見せられたら勝ち目なんて無いよー」


 私には毎日欠かさずしている日課がある。

 朝と放課後、ベランダや教室に植えてある花に水や肥料をあげて世話をする事だ。元々先生が買ってきた花や、ベランダに授業などで育てていた花達。
 だが買ってくるは良いが、誰一人、先生だって忙しいからと花の世話をする人なんて居ない。それに気づいたのは入学して直ぐだった。丁度、黄瀬君が付き合いだした頃だろうか。
 元々花は好きだったし、世話をする事も大好きだ。話し掛けても答えは帰ってこないが愚痴でも恋バナでも世間話でも話すとスッキリしたから日課になっていった。(だが傍から見れば独り言に聞こえて怖いのが難点)


「あっ、黄瀬君。・・・・・と、篠原さん、」


 今日も何時もの様に放課後花に水をやっていた。

 すると夕日に輝く一際明るい金髪を見つけ、其れが直ぐに黄瀬君だと分かった。こういう所、恋する女は凄いと思う。
 だがその横に居る金茶髪の女の子を見て愕然とする。二人は学校だと言うのに、外の花壇に腰掛けて手を繋いで居た。
 彼等は私とは逆の方向を向いている為、私の存在には気付いていないようだが。何やら楽しそうな声も聞こえてきて、自分の恋している相手なのに二人を見るとウットリして来るまで重症化していた。

 少し悪趣味だが、2階から二人の様子を眺めている事にした。


「はぁ、やっぱりお似合いだ。あの二人。悔しいけどな!ねえ私の花達!」


 ぼーっと小さいジョウロを片手に頬杖を付く。夕日が眩しくて、より一層彼等の雰囲気が輝いて見えた。途端に虚しくなる。だけど見ていたいと言うよりか、黄瀬君を見ていたいと言う恋心が発達して、虚しい気持ちも退いて見ていた。

 だがどうしても篠原さんの方に目がいってしまう。

 美少女、どんな可愛くても黄瀬君の彼女なんて認めたくないが、本当にお似合いだった。あれでは本当に不公平、世の中不公平。釣り合っているから、あの黄瀬君に釣り合っているから。
 可憐で儚い、世界有数の美少女。優しそうで成績優秀、失敗なんてしない、彼女に汚物は似合わない、ふわふわとしていて、此処だけは認めたく無かったけど、花がとても似合う。可愛らしいお花畑に居るお姫様の様な篠原さん。
 わ、私だって花好きは認めないんだからっ。私だってお花似合うから!とムキになるが平凡、平凡、何の変哲も無い私なんかより、正直彼女の方が数億倍似合っていた。

 黄瀬君が何か楽しい事を言って彼女を笑わせる。だがその笑みも大きく口を開いて下品に笑うのでは無く、口に手を添えて花も飛び散る様な素敵な微笑み。まさにスマイルだった。あああ何て可愛いのだろう可憐なのだろう神様よ!私は何であんな風に生まれてこなかった!

 ふと甘い花の香りが鼻を掠めた。ああ、風に乗って此方にまで流れて来たんだろう。多分篠原さんの使っている香水だろう。


「良い香りッスね」

「ふふっ。涼太にも付いてるよ?この香り」

「・・・可愛い」


 そして黄瀬君が篠原さんに口づけようと篠原さんの髪を片方耳に掛けて、優しく唇を触れ合わせる姿は本当に絵になる美しさだった。まるで本当に、おとぎ話を読んでるみたい。

 途端に虚しく悲しくなった私は直ぐに彼等から隠れるようにベランダにへたりこんだ。じんと熱くなった目尻を何度も何度も擦って、真っ赤な頬をぺちぺちと叩き、それでも流れてくる涙を堪えきれずに、声を押し殺して泣いた。

 そして一番私の心を抉ったのは、キスしようと黄瀬君が身体を捻らせた時に、思わず黄瀬君と———目が合ってしまった事だった。





 ×





 だがそれから暫く経った夏。私の耳に不可解な噂が流れた。


「ねえサクラ知ってる?黄瀬君ってあの篠原と別れたんだってさー」


 え?何良く聞こえない。え、別れた?誰が?黄瀬君と、篠原さん・・・?
 今日は黄瀬君はまだ来ていない。黄瀬君が居ないのを確認して、友達に訳を聞いた。


「どういう事・・・?」

「いやあ、隣のクラスの友達から聞いたんだけどね。篠原がフッたらしいよー。“もう面倒。疲れた。飽きた。”ってさ」


 もう本当に意味が分からない。あんなに憎たらしい程にイチャついてたのに?あんなに幸せそうだったのに?
 飽きた?私あんた等の為にあんだけ泣いたって言うのに?多分それは私だけじゃないはず。この私でさえも黄瀬君に恋をしているんだ、もっと本気だった女の子なんてわんさか居るのに。その度に、彼等の為を思って恋心を殺した女の子だって居る。私だって殺しかけた。

 それを、「面倒」「疲れた」「飽きた」の一言で裏切るなんて、本当に許せなかった。

 理解してきた頃、同時に嫌気も差していた。




 そして、今黄瀬君フリーなんだってさ!幾ら平凡なあんたでも、彼女に振られて落ち込んでる男位簡単に落とせるし。今超チャンスでしょ!

 なーんて考えてる自分が居る。ああ本当、最低だな私。


 黄瀬君とは余り話したこと無いけど、黄瀬君の気持ち良く分かる気がする。今まで失恋なんて数える程に経験してきた私にとって、黄瀬君は多分生まれて初めての失恋だろう、気持ちが良く分かった。失恋に経験なんて必要ないから。

 と、其処まで考えて、


「ま、只の噂だけどねー!!」

「え?」

「だから本気にしちゃ駄目だよサクラ!あ、あんたにとっては噂が本当の方がラッキーだろうけどさ。・・・あのカップルに嫉妬した奴らが勝手に作ったって言う人もいるし」

「え、篠原さんが言ってたってのは?」

「だからそれはあくまでも噂だって。本人に聞いても教えてくれないんだってさ。でもそれ怪しいよね」


 何というか、とても複雑な気持ちになった。



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