二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 星使いと天の川 【inzmGO】 ( No.8 )
- 日時: 2012/06/07 18:12
- 名前: 海穹 (ID: fQORg6cj)
「天秤座の星使い」
episode 1
「……全く、何をやってるんだか」
雷門中学校、屋上。そこでは一人の少女が吹く風に髪を揺らしながらグラウンドを眺めていた。
冬の寒さはとうに消え去った、春の朝。肌寒さもなくなって、四季で一番快適ともいえそうな時期の今日は、雷門中学校の入学式だ。しかし、少女は新入生ではない。二年生だ。クラス替えももう済んでいるため、楽しい期待も、もう皆無だ。否、少し違う。ごく微量、彼女は楽しみにしていることがある。今日は行ってくる新入生の一人、そして彼女の顔見知りの少年のことである。
そして、今少女の視界にはその少年がおさまっている。無論、少年が屋上にいるわけではない。少年がいるのは少女が見ているグラウンドだ。
* * *
ドス、とか、バキ、とかお世辞にも聞きたいとは思わない音が、サッカー部のグラウンドに響いていた。
その音を奏でているのは、雷門中していの学ランではなく、紫色の学ランを着た少年、剣城京介であった。
圧倒的な力の前にひれ伏していくのは、もちろん、雷門中サッカー部のセカンドチームである。
「……セカンドはこんなもんか」
剣城はそう呟き、徐にサッカーボールを腿に乗せる。随分と手なれた動きのそれ。剣城がどれだけサッカーの実力を持っているのかが一目で分かる。
「ちょっと君!何してるの!」
唐突に辺りに響いた、女の声。その声の先を見れば、藍色の短めの髪を揺らしながら走ってくる、教師と、その後ろについてきている新入生らしき少年がいた。
グラウンドに入って来た女は、そのまま部員に駆け寄った。少年はずっとこちらを凝視し続けている。
その間にも、女は心配そうに部員に声をかけていた。
「喧嘩は駄目よ!!」
話を聞いていれば、その教師は、どうやらサッカー部の顧問らしい。これで話がつけられるな、と剣城は女に向き直った。切れ長の鋭い目が、女とその隣で呆然としている少年を捕える。
どうやら、こいついらは勘違いをしているらしい、と剣城は心中で嘲笑う。
「俺、喧嘩なんかしたっけ?」
自慢げなその声に反応したのは、セカンドチームのキャプテンだった。
「こいつは、一度も手なんか出してません。サッカーボール一つで、俺たちを……」
悔しげに、苦虫を噛み潰したような顔をしてところを見ると、それが脅迫されていっている言葉ではないことが明白だ。
その言葉に驚愕し、口を覆う教師を、剣城はまた嘲笑うように見る。しかし、そのまなざしはひどく鋭い。
「どうしてこんなことを!」
「命令だから、だ」
そう間髪いれずに返ってきた返事に、音無春奈と松風天馬は首を傾げた。一体誰の命令だ、と言わんばかりに。
「まあ、兎に角、今日限りでサッカー部は廃部だ」
「廃部!?」
始めて口を開いた天馬は、ひどく驚いた顔をしていた。先ほどのハルナよりも、もっと。
「なんで急にそんな!」
「さあ、あっちの決定は俺にはよくわかんねえ。ただ、一つだけ分かることは……」
「サッカーなんてくだらないものは、必要ない」
断言するように言った剣城が蹴り上げたボールは、見事な放物線を描き、近くにあった網目のごみ箱に収まった。
春奈と天馬が呆然とする中、剣城はある視線を感じて振り返る。
面白そうな、品定めでもするような視線を投げかけていたその人は、屋上にいた如月結だった。