二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナクロ〜なくしたくない物〜4000越え ( No.247 )
- 日時: 2013/03/29 20:13
- 名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: O59cZMDb)
5章 。○裏切り方○。
1話 「信じることってけっこうムズい」
ラグナロク第一戦目の前半も、残りわずか。
ベンチに座っていた俺は、ただひたすら、緊張していた。
いや、まあね。疑ったりなんかしたくないけど、いつ『フェーダ』側の人間が、しかけてくるか、分かんねぇし。
フェイのこともあるし……。一番良いのは、なにもないことなんだけどな。
っていうか、フェイにボールがわたる度、ハラハラしてしまう俺は、なんつー奴なんだ。
「フェイ?」
いぶかしげな水鳥先輩の声に、俺はハッとして、フィールドに目を向けた。
フェイが——エルドラド側のゴールをふり返った!
(まさか、記憶が!?)
「やめろっ、フェイィッ!!」
その声を合図に、フェイの足元から、ボールが消えた。——ように見えた。
シュートしていた。自分たちのチームのゴールに。
(やられた……!)
絶対サリューだ。
わけもなく、そう確信した。かってに、右手に力が入る。
不意打ちのシュートは、うなりを上げて、シュートへ一直線。あっさりと、ゴールを許した。
『フェイのオンゴールだぁ!?』
うるさい実況の声が、遠くに聞こえる。
『ふ、風花さん……。』
(やられたよ、ほんとに……。)
『サリューさんですね。まさか、この短時間でなんて……。』
(ナメてたな、あいつのこと。)
ピ——ッ
『おぉっと、ここで前半終了!』
このタイミング!? あの、タイミング良すぎじゃないですかね!?
って、それよりフェイだッ。
「どこへ……あ、いた。」
俺は静かにベンチから抜け出し、フェイの尾行を開始した。
☆
「ぼくは天馬と一緒に、サッカーを守らない。」
冷たい声が、静かな廊下に響きわたる。俺は壁に身をひそめながら、目を細めた。
(ひー。こえぇ、こえぇ。)
「なに、盗み聞きしてるの?」
「ん?;;」
いきなり声をかけられ、硬直。
と同時に、えりもとをつかまれ、天馬たちのところに放り出される。
「わっ!? え、ユエ?;;」
「よ、よぉ、おふたりさん……。めっさ扱い悪いな、サリュー。」
「だって、ていねいに扱う必要はないでしょ?」
「おまえなぁ……。」
「ユエ……な、なんでここに?」
「彼女、ずっと盗み聞きしてたんだよ、ふたりの話。」
「えっ……。」
天馬の顔が、明らかにゆがむ。
「ちっ、ちがう、カンちがいすんな!?;;」
サリュー、ほんとに人聞きの悪いこと言うよな……。
頼むから、これ以上へんな子と言わないで……。
「それに、色々かくしてるんだよねぇ?((チラッ」
「えっ((ドキッ」
「それ、ほんとう? ユエ……。」
「そ、それは……。」
俺は、思わずうつむく。
さすがに、天馬が俺を疑うとは思えないが、さすがに言うのは、少し気が引ける。
「いっちゃえば? どうせ、いつかバレるんでしょ。」
フェイが、ばっさりいいすてる。
そう。どうせ、あとでバレる。でも、いまは、まだいいたくない。
「風花?」
天馬に声をかけられ、ハッとした。
(くそっ……。)
ムカつく。
サリューにじゃない。
自分に対してだった。
もしかしたら、『フェーダ』のスパイなんじゃないかっていわれる……。そう思ってる俺が、ムカつく。それに、そういわれるんじゃないかって、天馬を信じられていない、俺も……。
「じれったいなぁ。」
サリューの声と同時に、ガチャッと音がした。その音に、下げていた顔が、弾かれたように上がる。サリューの手にあったのは、銃——!
「危険物は持ち込み禁止のはずじゃ!?」
「関係ないね。」
サリューはいい、引き金に手をかけた。その銃口は、天馬に向けられている……!? 向けられている本人は、かたまって動けない。
「え……!?」
「いいのかなぁ。このままじゃ、天馬が死んじゃうよ?」
(こいつ……俺にわざと、能力を使わせようとしてるのか……!?)
いま、天馬を殺るようなことは、さすがにサリューでもしないだろう。でも、やっぱり可能性は捨てきれない。
いや、それ以前に、なんでこいつ、俺の持ってる能力、知ってんの?
って! 冷静に考えてる場合じゃねえ! このまま放っておいたら、あのクソな破壊力の銃で、天馬は、罪もないのに打ち首に!(←なに、それ)
なんて混乱している間に、重々しい銃声が、廊下を振動させた。その瞬間、体が勝手に動く。
天馬に手を伸ばし、その手に、無意識的に力が入り——能力が発動されていた。緑色のまくが、天馬をドーム状に包み、守っていた。天馬の目が、驚きで見開かれ、ゆっくり、スローモーションのように、こちらをふり返った。
かたまって動けない俺。
怪しい笑みをたたえているサリュー。
無表情でこの光景を見ているフェイ。
目を見開く天馬。
死んだときと同じくらい、最悪の瞬間に感じられた。