二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナクロ〜なくしたくない物〜5000越え ( No.283 )
日時: 2013/08/02 17:35
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: J69v0mbP)

5話   「あれまぁ」



おりが、ガラガラと崩れていく。一瞬の浮遊感の後の、落下感。おお、けっこう気持ち良いじゃねぇか、この感覚。
まあ、でも、作戦が失敗したら、俺は二度目の、相崎ははじめてのあの世行きだからな。あの世っつーか、天国っつーもんは、どうも気に入らねぇから、もう行くのは嫌だし。

「おい、おまえ、さっき対策あるっつってたよな! まだかよ!?」

引きつり顔で、相崎がさけぶ。

「もうちょっとだ。それより、手、貸せ。」
「はぁい!」

……こいつ、真面目……なんだよね?
相崎の右手が差し出され、左手でそれを包みこむ。情けないことに、ぶるぶると震えていた。

「安心しろ。あと、数秒でやる。」
「ああ!?」

とうとう狂ったかww
っしゃあ、やるか。
耳元でゴウゴウと風の音がして、風に目が開けづらい。
地表まで五百、四百、三百、二百、百、九十、八十、七十、六十、五十、四十……!

(いまだ!)
「いくぞ!」
「おおぉおぉぉ!?」

手を握ったまま、一気に神経を集中させた。
体を浮かばせるように、そっとでいいからっ。浮けばいいからっ。
……あんまり集中出来てないような。

「ユエ!?」

天馬の驚く声。まあ、任せとけって。
おっ、ちゃんと透けたや。大変都合のいいことに、まわりは土煙が上がり、透けてふわふわ浮いてる俺と相崎の姿をかくしてくれている。

「う、浮いてる……。」
「あれ? 浮くのは初体験か? ……あ、透けてただけだったっけ、不法侵入したときは。」
「人聞きわりぃな!」

もちろん、こんな会話も、誰にも聞こえない。だって、透けてて幽霊どうぜんの状態なんだもーん。あ、そうそう。ちゃんと、足はあるからな?

「もう煙も晴れそうだし、解除するぞ。」
「ああ。」

徐々に体に色がもどっていき、浮かんでいた足が、フィールドのしばふについた。

「ユエ……あれ? きみって……相崎くんだよね? ふたりとも、無事なの?」
「もちろんだぜ。俺がいたんだからな。」
「いろんな意味で、おまえがいて良かったぜ……。」

相崎くん、なんだい? そのいろんな意味でって。

「どの能力を使って、助かったの?」

その声に、はっとして振り返る。もちろん、こんなこときいてくるの、ひとりくらいなもんだ。察しはつくだろ?

「それは、どれぐらいの範囲でだ? フェイ。」
「もちろん、きみの持ってる能力全部の範囲内で。」

フェイが、俺をきつく見つめる。まわりのみんな——相崎をのぞく——は、よく分からないという顔で、俺とフェイを交互に見ていた。

「な、なに言ってるの?」

一番に声を発したのは、輝だった。びみょうにかたまった空気だったにも関わらず、よくこいつ、しゃべれたな。空気が読めんだけか?
あ、いや。輝はけっこう空気読めるほうだわ。

「能力って、どういうこと? まさか、ふーちゃんもセカンドステージチルドレンだとでも言うの、フェイ?」
「聞かれてるよ、風花。」
「聞かれてるのはフェイのような気がするが。」

なんて言っても、フェイが答えることはないってのは、安易に想像がついた。たぶん、フェイもサリュー同様、俺の口から言わせたいんだろう。
うん、フェイも悪趣味になったもんだね。

「……そうだけど。」
(あれ? なんで、こんなちっこくて、かすれた声なわけ……?)

自問すると同時に、みんなが絶句する。すでに知っていた天馬は、同じ事実をつきつけられて目を伏せ、はじめて事実をつきつけられたみんなは目を見開き、相崎とフェイは、まったくの無表情だった。
相崎は、ほんとにこういうのがこわい。無表情ってときは、なに考えてるのかほんと分かんないし、なにより、なにも考えてないのかっていうところも分からないのが、一番こわかった。

「そ、それ……ほんとうか?」

いまのは、神童先輩。いつも冷静な神童先輩の声が、震えている。

「こんな状況でうそいって、どうするんです。」
「そんな……じゃあ……。」
「まさか、月流も『フェーダ』のスパイなのかド!?」

うん……。
予想はしていたけど、実際きかれると、けっこう傷付くな、これ。
俺が否定しようと、口を開けた、そのとき。

「月流もだったなんてな。」

苦々しい顔で、倉間先輩がつぶやいた。それをあいずにしたかのように、次々とその言葉に同意する人が増える。

「信じたくないが……。」
「これまで隠していたっていうところもあるしな。」
「それに、このタイミングだし。」
「やっぱり……。」

誰がなにいってるかなんて、はっきりいって、ちゃんと聞いてない。
ただ……ただ単に、ショックだった。これほど簡単に、疑われるなんて……。
もしかして、俺のかってな妄想だったのかな……。「自分はセカンドステージチルドレンだ。」なんていっても、受け入れてもらえるなんて……。
そうだよ。このタイミングでいわれたら、受け入れるなんて……。

「……失礼します。」

なにもいえなくなった俺は、出口に入った。更衣室に入り、ふと思い出す。
そういえば……なんで俺、こんなに体がもってるんだ? もうとっくに、消滅しててもいいはずじゃないのか?
すでに雷門出発したあたりで、やばそうだったんだし……。

「また抜け出してきたのか? 風花。」

ああ、ほんっとに……もう嫌だ。
聞きたくないようなタイミングで、どうして出てくるんだよ。

「父さん。」
「なんだ。」
「なんで俺、消えてないのさ。」

俺が訊くと、父さんは「ああ。」と言って。

「そろそろ訊いてくる頃だと思った。」
「父さんたちが原因かよ?」

俺の問いに、父さんはあっさりうなずいた。

「おれたちが、おまえの消滅を遅らせてた。」
「……どういう意味だ?」

顔をしかめると、父さんは俺から視線をそらし、話し始める。

「おまえが、まだ雷門の人間たちと一緒にいたいというのは、分かっていた。だから、おれたちの消滅を早め、おまえの方を遅らせてくれと、記憶の氏(うじ)に頼み込んだ。」
「記憶の氏に……?」
「ああ。」
「記憶の氏って、あいつだろ? なんか、めっちゃ性格悪いって、天界で有名の。」
「ああ。」

あ。あっさり認めちゃったよ。

「あいつの命令次第で、蘇(よみがえ)りの氏も動きをみせる。母さんはすでに、完全に消滅してしまっている。」

父さんの声が、一気に落ちこむ。まあ、仮にもふたりは愛人だったしな。どちらか一方がいなくなれば、悲しいとかいう感情くらい、わくんだろうな。
まだ、俺には、よく分からないけど……。

「父さんは……?」
「おれも、もってあと数時間だ。」

父さんの言葉に、顔が下がってしまう。
嫌いだよ、父さんなんて。
母さんのことも、友撫のことも、俺のことも。たくさん傷つけてきたし。輝だって、父さんに傷つけられたし。
でも、俺のことを育ててくれた、俺の『父さん』なんだ。

「消えちゃうの……?」
「なに落ちこんでる。おれが消えたって、おまえはやっていけるだろう。」
「……うん。だって、強くなったもん。」
「なら、そんな顔するな。」

父さんが俺の顔を、無理矢理上げさせる。その顔は、涙にぬれていて。
あざ笑うように、父さんが笑む。

「じゃあ、おれも体力つかいたくないからな。」
「うん。」

涙をぐいっと手の甲でふき、父さんにうなずく。

「じゃあな。」
「うん。」

俺がもう一度うなずくと、父さんは、空気に溶け込むように消えてしまった。