二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナクロ〜なくしたくない物〜 ( No.322 )
日時: 2014/01/13 16:15
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: J69v0mbP)

☆番外編☆第二十二話   「再会」



「あした、あしただよ、にいに!」

カレンダーを見ながら、友撫がぴょんぴょん跳んだ。こころなしか、学校に行かなくなってから、友撫が幼くなったように感じられる。
もっと、いろいろいっていた気がするのだが。
そういえば……行かなくなってからだったか、友撫が風花を「にいに」と呼ぶようになったのは。
髪が短くなってから、風花を「兄」とみるようになった。
べつに、髪の長さは変わっても、性別は変わっていないのだが。

「そうだね、友撫。」
「ゆうな、はやくいきたい! いっぱいたのしいこと、まってるとおもうの!」

うっとりしたようすで、友撫は手を組んだ。飛行機に乗るのは、風花も友撫もはじめてだ。おたがい、飛行機についてのイメージをいい合いながら、「楽しみだね。」と語り合った。
夏の土曜日は、セミ獲りをする、少年たちが外を駆け回っているようだ、キャンキャン騒ぐ声が聞こえる。

「ねえ、にいに!」
「ん?」

跳ねながら呼びかけてくる妹のあたまを、ぽんぽんとたたく。
すると、きゅうに静かになり。

「にいにもたのしみ……だよね?」
「……うん。」

すこし間を置いてうなずくと、友撫はにこっとする。
たしかに、楽しみだ。
なにより、ここから出ることができる。一時的ではあるが。
逆に、どこかさびしい思いもあった。
学校であんなことがあったとはいえ、ここは風花の大好きな、生まれ住んできた土地だ。
それに——……。

コンコン
「風花、いいかしら?」

ノックの音とともに扉が開き、母が顔をのぞかせた。
風花は立ち上がり、うなずく。
すると、母は風花を、リビングに連れて行った。
誰か来たのかと思いながら、母に連れられるまま、リビングに向かったが。
リビングのいすに、うつむきながら座っている少年が誰か分かった瞬間。
からだ中の力が抜けた。
あの特徴的な髪型も。
優しげな目元も。
細い手足も。
繊細な光を放つ瞳も。
間違いようがなかった。

「輝——…………!」

風花が小さくその名を呼ぶと、輝がこちらを見た。
こちらを視認したのをあいずにしたように、こちらにかけてきて。
かたいフローリングの床に、風花を押し倒した。

「いたっ。」
「あ、ご、ごめん。」

あわてて上から退き、痛そうに後頭部をおさえている風花に謝る。
風花は笑いながら許したが、すぐに顔色を変えた。

「なんで、輝がいるの……?」
「ママが呼んだの。」
「えっ!?」

驚いてふりかえると、母が真剣な瞳で、風花たちを見下ろしていた。
どくん、と心臓が跳ねる。

「この間、買い物をしていたら、たまたま輝くんの帰宅とかぶったの。それで、話していたのよ。風花たちが、アメリカに行くって。」

つらそうに、輝が視線を床に下げた。その反応に、風花もすこし落ちこむ。
まだ、こんなに、自分を気にかけてくれるひとが、いたのだ。

「そしたら、落ちこんじゃったから。うちにおいでっていったのよ。風花も喜ぶからって。」
「そんなことしたら、輝が痛いメにあうのに!」

輝がもし、クラスの女子にいじめられていたら。
その光景が脳裏に浮かんで、風花は目に涙をためて、さけんだ。
大切な輝が、酷いめにあうなんて。
そんなの、嫌だ。

「だいじょうぶだよ、ふーちゃん!」

ぎゅっと、風花の左手がにぎられた。
輝がこちらをしっかり見て、ふわっと微笑む。

「おれならだいじょうぶ! それに、誰がいじめてるか分かって、その子、もうお説教されちゃったから。」
「え……?」

きょとんとして、輝をまじまじと見つめる。
輝は先ほどとは違う、とても安心できる笑みを浮かべて。

「蓮香ちゃんって子だったんだ。」
「……え?」

蓮香ちゃんが?
驚きで、まともな返答ができない。

「蓮香ちゃんって子が、まわりの女の子に命令して、やったんだって。」
「……ほ、ほんとに、蓮香ちゃんなの?」
「ママもきいたわ。」

風花の視線にあわせ、母はしゃがんだ。

「仲がよかったのかもしれないけど……でも、そういうこともあるの。女の子って、こわいのよ。」
「? あたしも……。」
「あなたは女の子だけど、ぜんぜん女の子じゃないから。」

それは酷くないか?

「女の子って、すっごくねちっこくて、腹黒くって、ズルいのよ。」
「?」
「まあ、まだ分からなくてもいいわ。今回のは、いい経験だったと思うわ、ママは。やられたら嫌なこと、どんなことか分かったでしょ? 以後、こんなことしたらだめよ。」
「したくないもんっ。」
「それでいいの。」

ふんわり笑って、母はあたまをなでた。