二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナクロ〜なくしたくない物〜 ( No.327 )
- 日時: 2014/01/23 09:22
- 名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: O59cZMDb)
☆番外編☆第二十五話 「記憶」
「ソフトクリームじゃないの?」
アメリカに来て、二日目。
自由の女神を見つけた風花がぽつりと言ったのが、このセリフ。
吹き出した父と、恥ずかしそうに頬を染める母。大きく口を開けて笑うムルーシュに、きょとんとする友撫。友撫も「あれ、ソフトクリームでしょ?」と言いたげだ。
「なんなの、あれ?」
「たいまつよ、風花。ソフトクリームじゃないわ」
ふむふむ、とうなずく風花を、ムルーシュはとなりで、にこにこしながら見ていた。その視線に気づいた風花は、彼をふり返る。
「どうしたの、ムルーシュおじさん?」
「イエイエ、可愛イ間違イダト思ッタダケデス。」
「……それ、褒められてるの?」
「………………アンマリ褒メテナイデスネ。」
うう、と落ちこむ風花を、笑ってなぐさめてくれるムルーシュ。友撫も遊んでほしそうに、くるんとカールした、ムルーシュの口ひげをちょいちょいと引っ張る。それをバックミラー越しに見ながら、父はくすりと微笑んだ。
でも、やはり。
ひとりだけ、暗い表情の母がいた。
☆
アメリカに来て三日目の夜中。
もう真夜中の十一時になったというのに、風花はなかなか寝付けない。刺激がいろいろありすぎて、興奮状態が続きっぱなしなのだ。
すこしのどがかわき、水を飲みに寝室を出たとき。
母と父の、かすかな話し声が聞こえた。なにやら、大切なことを話しているらしいが、いまの風花はのどのかわきを癒やすほうが先決だし、なにより眠たかった。
キッチンに入ると、母がこちらの存在に気づいたらしく、やって来た。
「まだ寝てなかったの、風花。」
「眠いんだけど……眠れないの……。」
コップに水をつぎながら、半開きの目で言う。母はため息をついた。
「眠れないときは、お米を想像しながら、一粒ずつ数えるのよ。日本人は、まっ白な無数のお米のほうが、なじみ深いからね、羊よりも」
余談として言っておくが。
「眠たくなったら、羊を一匹ずつ数えるといい」というのは、羊飼いの多かったヨーロッパなどでの話。羊飼いは、大量の羊たちを一匹ずつ数えていると眠くなるからだ。
日本人は羊になじみがないため、なかなか眠れない。そんなときは、羊より断然なじみの深い、米を想像しながら、一粒ずつ数えるといい。
これも余談だが、私は七十八粒数えたら寝ました((←
「うん、分かった……」
水を飲み干すと、コップを母にわたしてから、ベッドに入って、布団をかぶる。
やってみると、母の言ったとおり、七十二粒数えたら眠ってしまった。
さて、母たちはというと。
ふたりは、あることについて、話し合っていた。
「そろそろ言ったほうがいいかしら。ほんとうは、病院に行くことが目的だって。あと……。」
「分かっている。明日、もう行く予定だからな。だが……どうなんだろうか。」
風花が出て行ってからすこししても、ずっとこの内容についてだった。
すこし水を飲んだあと、母は水面を見つめる。
「あの子には……もう、忘れてほしいの。」
「それは俺も同じだ。捨ててしまおう。」
「駄目よ! いつ取りもどしたいと言い出すか、分からないわ。……あの子は、一郎太さんのようになるわ、きっと。」
「……ああ。」
風丸一郎太。
世界大会で日本代表として出場したほどの、実力の持ち主の少年だ。いまとなっては、もうすこしで社会人になるという年齢だが。
風花のいとこにあたり、ちょくちょく遊びに来ては、風花たちにサッカーを教えてくれている。そのようすを見ているかぎりだと、かなり上手いのだが……。
「あんなのは、もう、いらないわ。」
感情を押し殺した母の声。父も、苦虫をかみつぶしたような表情になる。
「そう……だな。」
「あの子は……もう、必要としてないわ。」
「ケド、風菜サン。」
ムルーシュも来て、母・風菜のとなりに腰かける。
昼間とは違う、真剣な面持ちで。
「風花チャンノ意見モ、キチント聞イテアゲタホウガヨイノデハ?」
「あの子は、必要と言うわ。でも、それで将来、あの子が傷つくくらいなら……。」
消してしまいたい。
そう言おうとしているのが、ムルーシュには分かった。
「……オ好キニナサッテクダサイ。部外者デスカラネ。」
先ほど腰かけたばかりなのに、ムルーシュはまた立ち上がった。