二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナクロ〜なくしたくない物〜2章2話更新&500越え ( No.52 )
日時: 2012/08/13 20:28
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: z52uP7fi)

三話   「怪しい笑み」



俺の背中にゆらめく黒いオーラに、一気に視線が集まる。そのオーラは形となり、一瞬再びユラッとゆれたあと、完全にすがたを現した。
赤い炎、オレンジの燃える瞳、きゅっと結ばれたくちびる、凛々しい顔たち。そう、こいつが俺の『もう一体』の化身……

「『炎風精(えんぷうせい) ファイアリ』!」
「あ、ありえない……。」
「ひとりに化身が二体だと……!?」

神童先輩と剣城がうめく。
だが、ベータはニヤリとよゆうの笑み。

「そんなコケおどしで、あたしとアテナからボールを奪おうだなんて、百年はやいね。」
「奪うつもりはない。でもっ……。」

俺はベータにつっこんだ。ベータはハッとした。

「おまえを止めることくらいはできる!」
(こいつ……!)
「おらッ!」

ベータの蹴ったボールが、こっちにむかってくる。すごいスピードだ! 威力も抜群……となると、自分のからだで受けとめるのは、さすがにベータのいったとおり、無謀すぎる。ならば……!

「っ……ハアァッ!」

俺はありったけの力をこめて、ボールを蹴り返した。ベータを軽々跳びこえたボールは、運良くあぜんと立っていた天馬の元へ飛んでいった。

     ☆

「風花、すごいね!」

前半がおわって、天馬がすぐこう声をかけてきた。でも、俺は暗い顔で、

「いまはそれより、どうやったら勝てるかだよ……。」
「う。うん……。」
「なんて顔しとる。」

きゅうに声をかけられて、みんなはハッと顔を上げた。そこにいたのは、青いと、見なれた白ヒゲとオレンジ帽子の……!

「あ——ッ! じいさん!」
「ムッ、なんじゃと!?」
「ちょっ、風花!? 失礼だっての!」

俺のさけびに、じいさんはわけわからずもムカついたようす。んでもって、天馬はオロオロしてる。

「まるで風花みたいなガキじゃな。」
「その風花本人だし! っつーか、ガキっていうんじゃねえよ、もう俺、小学六年生だぜ?」
「は?」
「えっ、ちょ、ちょっと待って。風花は円堂大介さんと知りあい? ていうか、小学六年生って、え??」

天馬、もう完全大混乱。オロオロ、オタオタ。もうダメだな、こりゃ。

「ほぉ、風花本人のお。まあ、未来からきたとなると、それもありか。」
「! じゃ、じゃあ、じいさん……!」

信じられないという気持ちと、うれしい気持ちが入り交じった、へんな感覚におそわれながらも、じいさんをじっと見つめた。

「わしが監督になろう!」

じいさんがそういったとき、天馬たちは喜び、ワンダバは砕け散っていた。

     ☆

試合が再開してすこし。
攻め込んでくるえっと……あの人、だれだっけ。ええっと……そう、エイナムを防ごうとするみんなにつづいて、俺も走っていた。
もうすこしで接触する、そのとき。

ズキンッ

「!?」

イヤなタイミングできた、激しい頭痛。
俺はがまんできず、その場にあたまをかかえてしゃがみこんでしまう。

「ふ、風花!?」
「悪い……ッ。くそっ。」

俺はむりやり痛みをおさえこみ立ち上がると、エイナムからボールを奪い取り、前線にいる剣城に蹴った。
そこまで終わると、まだまだする頭痛をこらえ、ひたいをおさえ、苦痛に顔をゆがめていた。


こんなすがたを、一番最悪の奴に、怪しい笑みをうかべながら、見られていたとも知らずに——……。