二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナクロ〜なくしたくない物〜2章7話更新&600越え ( No.74 )
- 日時: 2012/08/21 06:34
- 名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: z52uP7fi)
☆番外編☆第三話 「約束」
「風花。待たせてごめんなさいね、ごはんよ。」
「ふえ? あ、ごはんね。友撫ちゃん起きてるよ。」
風花は、自分のほおを思いっきりひっぱってくる友撫をだき上げて、食事用のテーブルのところまで運んでいき、いすにすわらせる……ことはできないので。
「よいしょ。」
と、風花のひざにのせることにした。
「えらいわね、風花ったら。いつの間にこんなおりこうちゃんになったかしら。」
「マ、ママひどいよ!?」
「ふふふ。じょうだんよ。むかしからいい子でしたよ。
母は「ふふふ」ともういちどわらうと、きゅうに顔をくもらせて、
「……パパをよんでくるわね。」
といって、食卓をでていき、家のいちばんおくの部屋へむかった。
父と母は、そこまで仲が悪いわけではなかった。ただ、あまりふたりは話さないというところがある。プロポーズしたのは父からなのだが……。
「ごはん、もうちょっとで食べれるから、待っててね。」
「あうー?」
友撫は、また風花のほおを、思いきりひっぱった。ほおに激痛が走る。
「い、いだだだっ。赤ちゃんでもこんなに力強いの!?」
「まあっ、風花っ!? だいじょうぶ!?」
母は、あわてて風花にかけより、友撫をはがした。
「もう、だめじゃない。」
「いいの、いいの。って、あれ? パパは?」
「パパはお仕事するんですって。ほら、食べましょう。」
「う、うん……。」
風花たちの家庭は、月に一回、食卓を家族全員でかこむか、かこまないか。食卓に家族全員が集合することのほうがめずらしい。
父は仕事熱心……といっていいんだろうか。あまり風花や母とは話したり、接触したりせず、自分の仕事にうちこむ。主に設計の仕事をしているから、風花にもよくわからないことばをたくさんつかう。だから、風花もちょっと近寄りがたかった。
「きょうはハンバーグ……といっても、冷凍のやつを、お湯にいれてあっためただけなんだけどね。」
「わーい、ハンバーグだあ!」
「風花は友撫ちゃんに、このミルクあげてくれるかしら? 飲んじゃだめよ。赤ちゃん用だから、風花はお好みじゃないと思うからね。」
「なっ。風花飲まないもん! ほら、友撫ちゃん。お口あーん。」
風花が哺乳瓶のゴム部分を近づけると、友撫はガブリとかじりついた。
母はそんな光景を見てくすりとわらってから、テレビのリモコンのボタンを押した。すると、サッカーをしている番組をやっていた。どこかで見たことのある、イナズママークは……。
「あら、これって、フットボールフロンティアインターナショナルの、決勝戦じゃない。」
「えっ、い、いまなんていったの……?」
風花にとっては宇宙人語のようにきこえたのでききかえすと、母はくすっとわらい、
「ごめんなさいね。これは、フット、ボール、フロンティア、インター、ナショナルっていって、短くいうと、FFIっていうのよ。」
「へえ。でも、いまそんな大会やってたっけ?」
「いいえ、ちがうわ。再放送よ、きっと。でも、ふつうするのかしら。……まあ、いいわね。ほら、お兄ちゃんがいるわよ。」
「えっ、お兄ちゃん!?」
風花はテレビのほうに、くいっと顔をのばした。青い髪を結び、前髪で片目がかくれている、風花にとってはおなじみのひと。
「あーっ、ほんとだ! 風丸お兄ちゃんがいる!」
「ふふふ。そんなにびっくりすることかしら。でも、いってなかったみたいだし、おどろくのもむりないわね。」
「すごい、すごい、すごーい! これって、セカイタイカイってやつ?」
「そうよ、世界大会。」
そんなものに兄はでていたのか、と風花は感動する。自分のいとこの兄が、世界の舞台に立っているなんて、しらなかった分もあり、おどろきだ。
「ねえ、風花もサッカーやってみたい!」
「えっ……。いいわよ、やってみましょうか。お兄ちゃんもよんで。」
「わーい! ママもやろうよ! パパも!」
「で、でも、それは……。」
「いいじゃん。パパもきっと好きだよ、サッカー。」
「……わかったわ。やりましょう、こんど。」
「じゃあ、約束ね。パパと、ママと、風花と、お兄ちゃんでサッカーやる! もちろん、友撫ちゃんも!」
「わかったわ。約束。」
風花と母の小指が、ゆっくりからみあい、ぎゅっぎゅっとにぎられた。