二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 薄桜鬼 沖千 《完》 ( No.11 )
- 日時: 2012/06/17 10:52
- 名前: 水草 (ID: T6JGJ1Aq)
「僕は今から君を好きになるけれど、君はそれを許してくれる?」
単に好きだと言わないところが、なんとも彼らしい言い回しだと思った。
異性から恋文等を貰ったことも無かったし、直接告白をされたのはこれが初めてだった。
それこそ誰かに恋をするなんて経験も無い全くの初心者だ。
それに自分は行方知れずの父親を探さなければならないという目的があるのだから、恋愛に現を抜かす暇は無い。
だから千鶴は断ろうと思った。それなのに。
「・・・・・・・・・・・・私で、いいのですか・・・?」
気が付けばそう尋ねていた。
自分は何を考えているのだろう。どうしてこんなことを言ってしまったのだろう。
慌てて訂正しようとしたときには既に遅かった。
目の前の彼が自分の手を壊れ物を扱うかのようにそっと取って、口を開く。
「君じゃなきゃ意味が無いんだ」
総司はいつになく真摯な響きを持った声色で柔らかく笑った。
この人はこんな風に笑えるんだ・・・と思った。いつもの何かを内包したような上辺だけの笑みでは無い。それは紛れもなく大切にしたい人間にだけ見せる表情のように感じられたのだ。
そしてその瞬間、きゅんと胸が締め付けられるような苦しさを覚えた。
多分この瞬間から千鶴は総司に惹かれ始めていたのだ。
「千鶴ちゃんの膝、気持ち良くて眠たくなっちゃうな・・・」
自分の膝の上でもう何度目なのか分からない欠伸を噛み殺す総司を見てやはり疲れているんだろうと思った。
此処の所、新選組は詳しくは分からないのだが大捕り物があるとかで部外者である千鶴すら分かるくらいに慌ただしく動き回っていた。
精鋭揃いの一番組の組長を務める総司も当然忙しく、今日は久々の非番でようやく二人でゆっくり過ごせる時間が取れたと彼は千鶴の部屋にやって来たのだ。
仕事が終わって真っ先に自分に会いに来てくれたのはすごく嬉しい。
膝枕をして欲しいだなんて普段以上に甘えてくる彼は本当に・・・・・・愛おしい。
けれど自分のせいで彼に無理をして欲しくないのだ。
疲れているのなら休んで欲しいし、今日くらいは一人でのんびり過ごすのだって構わない。
彼だって本当はそうしたいはず。・・・少し、寂しいけれど。でも我慢出来る!
何より、自分の存在が総司の重荷にはなりたくない。もう十分新選組には迷惑を掛けているのだから。
「私のことなら気になさらないで下さい。忙しかったでしょうし、好きなだけ寝てもらっても構いません。それに私はその・・・・・・沖田さんの寝顔、見てみたいですっ・・・!」
最後のは取って付けた理由というわけではなく、紛れもない本心だった。
好きな人の寝顔を見てみたい。なんてものは自然の感情の気がした。
けれど総司は不満げだ。やはり駄目なのだろうか?
膝の上の彼は横向きに寝転がっていた身体を仰向けになるように転がすとこちらを見上げる。
視線がかち合う。
何度こうして見つめ合っても未だ慣れない、恋人同士の距離というものに千鶴は頬を仄かに紅葉させる。
それを見透かしたような総司は意地の悪い笑みを浮かべると、千鶴にすり寄って腰にぎゅっと抱き付く。
膝に顔を埋める彼を見てこれは総司なりの甘え方なのだろうと思うと、千鶴は嬉しくなる。
そして総司は千鶴を喜ばせることに関して怠らない。もはや一種の才能だ。
何故ならこのようなとき、更に追い討ちを掛けるような言葉を掛けるのだ。それも常日頃から。
それは勿論今日だって例外ではない。
「せっかく邪魔者も居ない二人きりなのに眠るなんて勿体無いや。僕はもっと千鶴と話したいんだけど・・・・・・それじゃあ不満かな?」
不満なわけがない。
千鶴はそれを伝えるように何度もこくこく頷く。
それに千鶴、と初めて呼び捨てされた。それも凄く自然に。
ふわふわ、ふわふわ。柔らかくて心地良い感情が渦巻く。
それだけで千鶴はとても幸せな気持ちになる。
恋に溺れると些細なことに一喜一憂するし今までとは一変、世界があらかさまに違って見えるのだから凄いと思う。
そしてこんな安らぎを与えてくれる総司に出会えたことも、千鶴にとってはこの上なく幸運だった。
「千鶴、・・・・・・愛してる」
寝言のように呟いた総司の囁きが耳朶を擽る。
きっともし幸せすぎて人が死ねるとしたら、千鶴はこの瞬間即死していただろう。
それくらいの満ち足りた幸福を、噛み締めた。