二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ブリーチ 夜を超える者達 一ノ一ノ三更新 7/8 ( No.25 )
日時: 2012/08/29 15:21
名前: スターク  ◆FwuTUrVzG2 (ID: 68i0zNNK)

 


                     第一章「闇の軍勢」 第一話「現世異変」四頁目



  「構えを解くなよ。目を背けるな。死にたくなければな」

  清涼感のある声が響く。秋に入っているとはいえ、まだ少し暑さの残る東京の夜の空を、その清音は得体の知れない寒気で支配した。圧倒的な存在感と、霊力から見て取れる実力。エツゥナイの危険度を肌で感じ、一護は構えを一層硬くする。

  「行くぞ!」
  「チッ! 多角攻撃かよ!?」
  「気をつけろよ、ホルオスはなかなか賢いぞ?」

  黒い帯を漂わせながらエツゥナイが走り出す。それと同時にヒヒーンという馬の嘶き声がどこかから響き渡る。右手に装着された紅い三本の爪を振るうエツゥナイ。そして、その左側には先ほどエツゥナイと合体し鎧と化したはずの黒馬が走る。

  まずは先に到達したエツゥナイの攻撃を刀の腹で受け弾き、彼を蹴り飛ばす。すぐにきびすを返し即興性の月牙を放つ。筋骨隆々とした巨躯を誇る、漆黒の馬はそれにより怯み後退する。更に一護は怒涛の勢いで、小型の月牙を連発してみせた。

  「石田! 油断するなよ」
  「君に言われたくない……っうぐっ!?」
  「石田あぁぁぁぁぁぁ!?」
  『くっ、どういうことだ!? あれだけの攻撃を食らって即座に反撃だと! まさか、ダメージがない?』

  相手の霊圧を読み取れなくなった一護は一旦、相手の死角からの反撃を危惧し後ろへと飛び退る。石田に話しかけた瞬間だった。黒い乱気流が月牙による霊圧の奔流の中から現れ石田を貫いたのは。

  一護はしばし呆然とし倒れ行く彼を見つめ続ける。攻撃は見えたが、打ち払うことができなかったことを痛嘆し、落下していく仲間の名を叫ぶ。しかし、霊力が感じられることを確信しすぐに敵の考察へと頭を向ける。そうしないと逆に煩悶が心を支配するから。

  黒い霊圧が霧のように晴れていく。その先にはいまだ完全に原形をとどめる二つの影が。

  「嘘だろ、全くの無傷だと!?」
  「僕のホルオスは賢くて強い。君の放った全ての月牙を全身の霊力と、世界に満ちた霊子を使って構築した盾により防いだのさ」
  「…………」
  「さらに彼は、圧縮から解かれて飛散した霊子を収束し……放つことができる」
  「ぐっ!? うおぉぉぉ!?」

  全くの無傷で現れるエツゥナイとホルメスの姿に、一護は愕然とし立ち尽くす。それをさも楽しそうな表情で彼は見つめ種明かしをする。どうやら、ホルメスの力は霊力の吸収と硬貨、そして放出という多岐にわたるものらしい。空間中の霊子を凝結させ相手の動きを封じるなどということも、できるかもしれないと想像すると、一護はゆがんだ表情をさらに湾曲させずにはいられなかった。
 
  ホルメスから圧倒的な霊力濃度の光線が解き放たれる。その力の大半は自分の月牙によるものだと思うと、一護は斬月に頼り切ったその短慮な戦いぶりを悔いるしかなかった。

  彼はかろうじて攻撃を上空へと逃れ回避し、ホルメスは後回しにすべきと考えエツゥナイの後ろに回る

  「うおおぉぉぉぉっ!」
  「声を出すべきじゃないな?」
  「くそっ!」
  「そらぁっ! 隙だらけだぞ!」
  「エル・ディレクト」

  一護の攻撃は空を斬り、エツゥナイは悠々と後ろへと逃れていた。そして、彼の目の前には一角の馬ホルメスが急接近していた。一護は必死で黒馬の角による攻撃を剣で弾き、エツゥナイの動向を確認せんと後ろを振り向く。

  しかし、すでにエツゥナイの姿はなく一護の左死角から彼の武器である漆黒の爪が近づいていた。刹那、新たなる霊圧が風に乗って伝わり、低く落ち着いた声が届く。そのすぐ後に光り輝く霊力の塊が、大地が裂けるような轟音を鳴らしてエツゥナイに命中した。

  「ぐっ? なんだい……」
  「チャド!」
  「あぁ、フルブリングの力をその身に宿した豪腕の戦士、茶渡泰虎か」
  『くっ、こいつチャドのことまで! この分だと隊長達や浦原さんたち、親父や織姫なんかのことまで知ってるかもしれねぇな!』

  突然の攻撃に驚き声をささやかながら荒げるエツゥナイ。見なくても分かる。救援の同士の名を一護は叫ぶ。アロハシャツの似合う浅黒い肌の巨漢、一護にとってもっとも付き合いの長い親友の一人、茶渡泰虎の愛称を。

  しかし、敵前では敵意外に目を配るのは自殺行為だ。すぐに一護はエツゥナイに意識を集中させる。頭を抱えながら仲間の名を確認するエツゥナイに目をやり、一護は思案する。相手は相当に此方側の戦力を把握しているようだ、と。

  「茶渡君は黒崎君の援護を! あたしは石田君の治療をするから!」
  「分かった! ブラソ・イスキエルダ・デル・ディアブロ!」

  どうやら井上織姫も駆けつけてきたようだ。強力な回復手段を持つ仲間の出現に、一護はエツゥナイへの集中を高めていく。茶渡の霊圧が一気に上昇するのを確認し、戦友と肩を並べて戦えることに歓喜しながら、一護は全ての雑念を取り払った。

  「ムッ! 俺はあの馬のほうの相手をする! 俺のことは気にするな! あいつは任せる!」
  「分かった! 行くぜ——」

  「やれやれ、同世代メンバー全員集合かい? 面白いじゃないか」

  ブリンガーライトを使い空を蹴り、眼前に現れる巨躯を見てエツゥナイは舌なめずりする。



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