二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ブリーチ 夜を超える者達 一ノ一ノ六更新 9/10 ( No.33 )
- 日時: 2012/09/24 17:17
- 名前: スターク ◆FwuTUrVzG2 (ID: 68i0zNNK)
第一章「闇の軍勢」 第二話「黒き者達」一頁目
「待てっ! 逃げんじゃねぇ!」
「何言ってるんだい? 僕達を引き止めるとか、愚作以外の何でもないと思うなぁ?
信頼置ける護廷の猛者達が、全て勢揃いしていますってわけでもないのにさぁ。 君達僕一人に苦戦してたよね?」
「…………」
「黙っちゃって正論だったかな」
「このっ……」
「止せ一護! ここは敵さんの言うとおりだぜ。無駄に逆撫でする必要はねぇだろう?」
ほんの少し黒以外の色が見えた黒腔(ガルカンタ)とは違い底なしに黒い洞。名前は分らないが、おそらく虚圏とは違う空間につながっているのだろう。虚圏なら追っていく事もできるが、理解解析の済んでいない空間なら追跡のしようがない。ただ相手の襲撃を人事を尽くし待つことしかできないということだ。頭に血が上った一護はそれだけを考え、手負いの敵をわざわざ逃がすまいと息巻く。
しかし、敵はエツゥナイ一人ではない。エツゥナイとそれほど大きく実力が変わらないレベルの者たちが十人。一護を含めたここにいる全員が全開で戦っても結果は見えているだろう。まだ冷静さのある恋次が一護を諭す。一護は苦虫を噛んだような恨みがましい表情を浮かべるが、恋次の言葉が正しいと理解しそに従う。
「あーぁ、突っ込んでくるかなと思ったのに。案外冷静だね? それとも単純に怖いのかな?
まぁ、君等の強さは十分理解したから。では、次に会うときは君たちが滅び、世界があるべき姿に戻る時だ。さよなら」
「畜生——」
消えていく。あと一押しで倒せたはずの敵が。次に会うときは恐らく、全ての傷を治し腕すら生やして現れるのだろう。それこそ、今回使わなかったと言った切り札すら容赦なく使うはずだ。せめてエツゥナイ一人でも消せれば。一護の心中にどうしようもないほど深い靄が掛かる。彼は小さく呻いた。その声は自責の念に溢れていて。となりに居た盟友は自分がもっと強ければ、と心の中で嘆き体を震わせる。
「黒崎!」
「石田、直ったか」
「そんなことはどうでも良い! 何をいつまでも呆然としているんだ!
僕達だけじゃ解決できないのは明確だ。先ずは浦原商店に行って報告しよう。彼なら何か妙案があるかも知れない!」
「あぁ、そうだな」
放心する一護の耳に石田の声が届く。どうやら織姫の回復が終了したようだ。名前を呼ばれて石田のほうを振り向き、仲間の安否を一護は伺う。織姫の術の完成度の高さを理解している石田は、同じく彼女の力を良く知っているはずの彼に、あの程度の傷彼女ならすぐに回復できるだろうことは明白だと憤慨する。そして、檄を飛ばす。
しかし、石田の言葉は一護には響かない。頭の芯では理解できているが、倒せるはずの獲物を倒せなかったのは、彼にとって大きな痛手だった。そんな身の入らない一護を見て石田は溜息をつく。そこに茶渡達が集まってくる。
「一護! 無事か!」
「チャド、ルキア!」
「無事なようだが随分と腑抜けた顔をしているようだな? 全く貴様のことだ。
大方手強い敵が現れたが、仲間の力を借りて倒せそうだったのに逃げられたて責任でも感じているのだろう?
昔から言っているよな? 敵の急襲が怖くて何が戦士だ!? なってしまったものは仕方ない!
立ち止まっている暇があったら行動しろ! 前を向け! 護るべき者たちが居るだろう!?
お前が立ち止まっている間に何人が犠牲になる! 敵を取り逃がしたことを嘆く暇があったら、前へ進むべきだ。
奴の口ぶりから、次の戦いは必ずあるだろう!」
「そもそもよぉ? あの展開で生かして貰えたってほうが運が良いぜ?
仮にあの饒舌野郎を倒せたとしても、そのあとあいつクラスを十人近く相手にすることになったら俺達は間違えなく全滅だった。弱点も分ってねぇような奴等相手に最初から全面戦争とか愚の骨頂だ!
あの変体下駄帽子なら俺達の証言からある程度の推論を立てれるかも知れねぇじゃねぇか!?」
「そうだな、確かにその通りだ」
「行くぞ一護! 絶対勝って世界を護るぞ!」
「あぁ、ルキア。お前って本当お節介な女だぜ」
茶渡の声に反応する一護を一瞥しルキアが半眼になる。一護が絶望に屈しているのだとすぐに察しをつたのだろう。彼女は一護の前に立ち強い眼差しを向ける。そして、彼を元気付けようと説得の言葉を紡ぎ出す。彼女の激を一護は昔からいつもこうだったなたお思いながら、無言で聴き続ける。死神になって初めて敗北したグランドフィッシャーとの戦いのとき、初めてのアランカル襲撃で圧倒された時。他にも数え切れない。本当にお節介だと思う。
だが、今回は彼女の他にもお人よしの世話焼きが居た。ルキアと同じ流魂街78地区「戌吊(いぬづり)」の出身。阿散井恋次だ。エツゥナイを饒舌野郎と揶揄し、浦原を変態下駄帽子などと呼び、冗談混じりながら真面目な口調で一護を諭す。
そんな久しぶりに会う二人の全力の説得に、一護は笑みを漏らした。自分の周りはお人好しで仲間思いの良い奴ばかりのようだ。彼らと一緒に生き延びて笑うためにも、ここで立ち止まっている場合ではない。一護は勇み足で歩き出す。
ルキア達以外にも多々居る護廷の猛者達、一護の師匠でもある浦原達。本当は信頼できる仲間は山ほど居て、それなのに一人勝手に悩んで味方を信用せず。さぞ護廷に所属しているルキア達は苛立っていたことだろう。確かに歴史上類を見ない危機を最近何度も経験したが、それでも戦い抜いてきたというのに。一緒に歩みぬいてきた仲間を信用できないのか、と。
それを証拠に自分達への信頼に溢れた一護の顔を見た恋次達は満足げだ。
「全く、小さなことですぐに落ち込むくせに立ち直りは早い奴だよお前は」
「何が言いてぇ?」
「くるくるくるくると面白くて忙しい奴だな、と」
「チッ! 余計なお世話だ!」
ルキアの皮肉に慌てたように一護は返す。それに対してもうしばらく大丈夫だなと思ったのかルキアは母性的な笑みを浮かべる。そして、冗談めかした口調で返す。一護は子供のように口を尖らせそれに応答する。そして、ふと下を見下ろす。
どうやら護廷の科学者達が手を打ってくれたおかげで、一般人達は大した損害を追わずに済んだようだ。最も、巨大なビルが一つ消滅していて大騒ぎになっているようだが。
「怪我人でなくて良かったね、阿近さん達が頑張ってくれたのかな?」
「だろうな。しっかし、本当久しぶりだな井上!?」
「二週間前の焼肉大会は来れなくてゴメンね? 皆勤賞これで終りだよぉ」
「良いって良いって! 親父も遊子も悲しんじゃいたけど理解はしてくれたって
いい加減俺達だって子供じゃねぇんだ。色々事情だってあるさ」
「相変わらず黒埼君は優しいね! 有難う、気が楽になったよ」
空を疾駆する一護達。一護の横に少し後ろを走っていた織姫が歩み寄る。プロポーションは相変わらず美しい。十年前と比べあどけなさが抜け大人っぽくなった彼女に、一護は頬を赤らめながら応答する。
阿近、現技術開発局局長にして、護廷十三隊十二番隊隊長を勤める男だ。先代のマユリがクインシー達との戦いで死去して以来、マユリの業務全てを一手に背負った男だ。その辣腕と勘の冴えは凄まじく、就任一年程度で護廷の信頼を得た傑物である。恐らく今回も逸早く現世の異変を察知し、迅速な判断で魂魄達の保護をしたのだろう。同じ護廷に所属する恋次とルキアは目を瞑り、上司の健闘を賞賛する。
最初は笑みを浮かべていた織姫だが、余り会えていないことが気がかりらしく俯く。特に黒崎家にて少し前に開かれた焼肉大会は自身も楽しみにしていたらしく、落ち込みが深いようだ。彼女は一護の妹である遊子に好かれているので、罪悪感もあるのだろう。
そんなしょぼくれる織姫を、一護はなだめる様に優しく頭をなでながら、元気付ける。織姫はすっかりいつも通りの表情になり、元気良く「うん」と答えた。一護は安心して前を向く。
だがそれは失敗だったかもしれない。織姫をあやすために、前から目を逸らしたことだ。彼は目の前にある電柱に勢い良くぶつかる。高速で移動していたせいもあり、衝撃音は凄まじく電柱がゆれ多少ながら皹すら入った。これで死ななかったのは、頑丈な死神だからだろう。しかし、エツゥナイとの戦いの傷もあり一護は地面へと落ちていく。
「アホかお前は……」
「黒崎君大丈夫ぅ? 顔真っ赤」
「ッ……駄目だ。俺はもう動けそうにない。恋次頼むッ!」
「あーぁぁ、貸し一つな。
ったく、てめぇみたいな重い野郎何が悲しくて担がなきゃならねぇんだ!?」
「くそっ! 悪かったな」
前方不注意により完全に体力をなくすという愚。馬鹿馬鹿しいにも程々がある戦友の姿を見て、近くを併走していた恋次は吐息を漏らす。そして地面に落下する前に彼を背負う。
織姫が心配して顔を覗く。漫画みたいに顔面が真っ赤になってるのを見て心配になり織姫は右往左往するが、恋次が目配せし回復は目的地についてからで良いだろうと言外に告げる。
一護自身不本意らしい嘆願に対し、恋次は心底嫌そうに応答した。そんな二人のやり取りを遠目から見つめながら、ルキア達は笑みを浮かべる。
「なぁ、石田」
「何だい朽木さん?」
「良いものだな。こうやって馬鹿話するのは。ずっとやっていたくなる」
「あぁ、そうだな朽木」
「だから、絶対勝つぞ今回の戦い!」
「当たり前さ!」
「ムッ!」
ルキアは小さい声で石田に声を掛ける。それに対して石田は冷静な口調で聞き返す。先程の嵐のような戦いが嘘のように、楽しく笑い合う幼馴染と戦友達の姿を慈しむように見詰ながら彼女は言う。この関係をずっと続けていたいという、強い願いを。
それを聞いた石田と茶渡はさも当然のように返答する。勝つとかこの関係を護りたいとか当たり前のことを口にするなと。最初から皆分りきっていることなのだ、と口を揃えて。
「一護、居るぞ? お前の心強い仲間は皆ここに居るんだ——」
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