二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

    それはただ一つの美しい、 / 第一章 . ( No.7 )
日時: 2012/07/01 10:40
名前:  香月  ◆uDMe5UGKd6 (ID: u7NWpt/V)






 ——みそら、と。
 己を呼ぶ声に、美宙は薄く目を開いた。
 ルビーのように透き通る真っ赤な髪が、少々大きめのベッドに散らばり、髪と同じように、またはそれ以上に透き通った大きなルビーの瞳が焦点を合わせようと動いている。
 ぼんやりと開けた視界には何時も通りの天井だけが映り、美宙は乾いた笑い声を漏らした。

「……母さん、」

 所詮、母親は幻の存在なのだ。
 後ろに手をつき、身を起こす。ギシリ、とベッドのスプリングが悲鳴を上げる音が気にくわず、美宙は上体を起こしてから、バン、とベッドを叩く。ギシリ。スプリングが悲鳴を上げる。
 どうやら窓を開けたまま寝ていたらしい。
 ふわりと浮いたカーテンと、隙間から差し込む日光に美宙は目を細めた。

「おはよう、美宙」

 キィ、と。不意にドアが開かれて、ひょっこり、という効果音が相応しいような、そんな顔の出し方をする女性に美宙は呆れたように笑った。
 ん、と相槌だけ返して、美宙はベッドから降りる。
 ぐぐ、と背伸びをすると、ぱきん、と音がした。かなり凝ってるんだねなんていう女性の言葉を聞かなかったことにして、美宙は薄い桃色のパジャマのまま、小さく欠伸をしつつドアへ近寄った。

「おはよう、リンさん」
「うん、おはよう」

 リン、と呼ばれた女性——林檎は挨拶を返してくれたことが嬉しかったのか、ふわり、と柔らかく微笑をして、寝癖なのか、所々はねている美宙の髪をゆっくりと撫でた。
 身長160㎝はあるであろう美宙と比べて、小柄な林檎は145㎝しかない。どう見ても美宙のほうが年上に見えるのだが、二人は義理の親子である。
 林檎はふわふわと何処かに行ってしまいそうな、そんな笑みを浮かべながら、美宙の手を取った。

「今日の朝ごはんはねー、トーストと目玉焼きだよー。美宙、牛乳嫌いだったよね? リンさん特製、ココアにしてみましたー」

 美宙の手を引き、朝食の用意されたリビングへと向かいながら林檎が朝食のメニューを伝える。
 美宙は相変わらずの様子にくすりと笑みを零しながら、「リンさんのご飯は美味しいから楽しみだな」と何時ものように言葉を返している。
 リビングへ向かう途中に通る玄関前、ふと美宙の視界に入る見慣れない靴。

「……リンさん、今日、もしかして」
「うん、そうよー。……あれ、言ってなかった?」
「聞いてないよ、リンさん」

 リビングのドアを軽く開け放ち、美宙は溜息を零した。

「おはよう、美宙」

 美宙の大嫌いな笑顔が、そこにある。








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 001.第一章
 主人公は美宙ちゃんです、(