二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- それはただ一つの美しい、 / 第一章 . ( No.9 )
- 日時: 2012/07/02 18:50
- 名前: 香月 ◆uDMe5UGKd6 (ID: u7NWpt/V)
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案内されたのは、吉良星二郎たちが見下ろす部屋と相対するように、反対にある、やっぱりフィールドを見下ろせる部屋だった。
防音設備が整っており、フィールドで話すヒロトや円堂達の声は美宙の耳には届かない。フィールド全体を見下ろせるそこで人は小さく、何かを言っているのが確認できるだけだ。それに、例え唇が動くのが見えても、読唇術なんて美宙はできない。
暫くぼんやりとしていると、フィールドと直結しているらしいスピーカーから実況である角馬の声と共にキックオフのホイッスルが聞こえてきた。美宙はぼんやりと視線を下へ移す。
「——……サッカー、」
懐かしい響き。
サッカーボールを手放したのは、何時だっただろうか。美宙は選手になど目もくれず、サッカボールだけを目で追いかけた。
おかしい。
おかしいのだ。
今、雷門とジェネシスは地球を懸けた戦いをしているのだ。だけど、——美宙の目には、どちらも楽しげに、それでいて何か共通する強い意思を持っているように感じられた。吉良星二郎を倒すだとか、そんなものではなく、何かもっと違う、とても、とても気持ちのいい、何か。
美宙は唇を噛み締める。私の欲しいものはこれなのだ、と。サッカーボールを手放したあの日、どれほど後悔したか、美宙はもう忘れられない。
少女はただ、女性を守ろうとしただけなのだ。
林檎の考えているようなことが分かった気がして、美宙は疲れたように溜息を吐く。未だ攻防戦の繰り広げられる試合はもう飽きた。何もおもしろくはない。
美宙の欲しいものを、いとも簡単に易々と手に入れる試合を見ていて、おもしろいことなど、一つもないのだ。
「、星野?」
不意に、背後から声が掛かる。
突然声を掛けられて肩を揺らす美宙に、くすくす、と苦笑混じりに、それでも楽しそうに笑みを零す人物を、美宙はよく知っている。
「……緑川」
「あったりー。やっぱり星野だ! 久しぶりだね、」
星野、というのは美宙の苗字である。
緑川は、レーゼの時とは違うポニーテールを揺らして美宙の隣に腰かけた。どうやってここにきたのか問うと、緑川は悪戯っぽく笑い、林檎さんがね、と語り始めた。
どうやら林檎が緑川に、此処に来るよう言ったらしい。余計なことをと思いながらも嬉しく感じた。美宙が独りを嫌っているということを林檎がよく知っているのだ、だから緑川をここへ寄越した。
そんなことは、美宙もすぐにわかる。
「星野のことだから、すぐ飽きちゃったんでしょ。でもね、凄いんだよ、雷門。——見てて、羨ましくなっちゃう」
「そうなの?」
「うん、……何て言うんだろ、上手く言えないけど、雷門はね、なにかを気付かせてくれる、そんな感じ」
へへ、と頬を掻いて笑う緑川を見詰めながら、美宙はへえ、と試合へ視線を移した。
「私は嫌いだなあ、雷門のお仲間サッカー」
/・・
001.第一章
美宙さんは雷門のサッカーが嫌いなようです。緑川はひそかにお気に入り、(