二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: inzm ——愛する君に伝えよう、 ( No.1 )
- 日時: 2012/07/03 21:14
- 名前: 舞雪 (ID: 6kwRIGzI)
第一章:やっと出会えた君たちへ
(1)アイタイヨ
好きだった。普通の女の子として。
「———白鳥? なんで泣いてるんだ、」
あのとき。
わたしがどうしても堪えきれなくなって泣いちゃったとき。
気づいてくれたのは君だけだったね、まあそれは、ただ単に今まで君が知らなかったからなのかもしれないけれど。
独りぼっちで、誰もいなくなって、鍵のかかった教室の隅の隅で、警備員さんが巡回する足音を聞きながら、うずくまってるのはしんどかった。
でもそうしろって言われてたから動けなかった。横に置いた鞄に寄り添うように、バカみたいに三角座りするわたし。
明日一番に登校してきたクラスの子に見つかるまで動くな、そういうゲームなんだって。
もし失敗して先生か何かに見つかったら怒られるのはどうせわたしだったし。逆らう理由はなかった。家に帰るのも嫌だったから。
このまま夜を過ごすんだ。そう思ってた。
だけど、
まだ教室の時計が『7』もさしていない時間に扉が開いた。
どく。心臓の鼓動がはっきりと聞こえる。
顔を出したい。誰かに見つけてほしい。
———合判した感情がわたしを苦しめる。
顔を出しては駄目。見つかりたくない。
ぎゅっと目を瞑ってからどれだけ時間が経ったんだろう。
扉は開いたときよりもゆっくりと閉まった。誰かはわたしに気づかずに帰ってしまった。
永遠に続くかと思うくらい長かったし、でも、時計はさっきとほとんど同じところをさしていた。
ふう、と一息つく。
と途端に視界が歪んできた。
何したかったんだろう。何してほしかったんだろう。
溢れだす熱い何かが制服の胸の部分を濡らす。
我慢してもしきれない嗚咽がさらにその熱い何かが流れ出すのをそそる。
「う・・・うぐぅ・・・ッ」
本日二回目の涙というやつだ。
昼休みには君が慰めてくれたけど、今は居ない。心臓が苦しい。
痛い。
怖い。
止めて。
幻聴だろうか、こつっこつっと先ほどの警備員さんよりも軽い足音が聞こえたような。
うずくまっている真っ暗闇のなかでは何も見えない。
否、わたしが見ようとしないだけなんだけどね、
あはは。
わたし、遂にあたまがおかしくなっちゃったのかな。
あったかい。それでいて確かな形がある。
あれあれなんだかおかしいな。
これじゃあまるで———誰かがわたしを抱きしめてるみたいじゃない。
「・・・ごめんよ白鳥。俺が気づいてやるべきだったな、すまない」
「ご、豪炎寺くんなの・・・?」
涙を袖で拭くこともせずに顔を上げると、そこにいたのは幻なんかじゃない、本当の、君だった。
力強い腕で抱きしめられて。君のあたたかさが直に伝わってきて。
ごめん、謝らなきゃいけないのはわたしのほうだ。
口にだそうとしたけど言葉にならなかった。
その姿は君の目には苦しんでいるように映ったのかもしれない。もっと強く抱きしめる君。
「ひ、昼休み、は・・・ぐっ・・・」
無理するな、そう言う君の顔はすぐそこにあった。
なんで泣いてるんだ、掃除用具置き場にしゃがみ込むわたしの隣に座って尋ねてきたのが君だったから恥ずかしくて逃げた。
正直言うとずっと君を見てたから。
サッカー部のみんなと楽しそうに話してる君。
真剣な目をしてサッカーしてる君。
わたしなら絶対に挫折してしまいそうな長編小説を楽々と読みきってしまう君。
悠然と廊下を闊歩する君。
———そんな君が全部大好きだったんだ。
「わかってるから。心配しなくてもいい、俺が助けてやる」
わたしの目をしっかり見つめる君を見上げて、まだ零れてくる涙も気にせずに頷く。
今喋ったらきっと言葉にならないだろう。
そう思っていても声を出そうとしてしまうわたしを制御するかのように、君は優しい微笑みを浮かべながら目をかるく閉じ首を横に振った。
「もうそのことは忘れろ。じゃあ・・・帰ろうか」