二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   inzm ——愛する君に伝えよう、 ( No.2 )
日時: 2012/07/04 14:44
名前: 舞雪 (ID: 6kwRIGzI)

(2)答えが自ずからでるまでのカウントダウン

















 君が職員室に寄っているのを待ってから、一緒に校舎を出た。
 何も話さずに黙々と歩く。もう七時はとっくの昔に過ぎたのだろうか、暗闇に二人分の靴音だけが響く。



「・・・時間は大丈夫なのか?」


 交差点の信号待ちで立ち止まり、赤いLEDの光のほうを向きながらふいに尋ねられる。

 お母さんもお父さんもきっとわたしのことなんか心配してやしない。
 鞄の取っ手を持った両手に無意識に力が入る。この中にある携帯に電話もメールもしてこないのがその証拠だ。



「してないよ。お母さんたちもまだ仕事のはずだから」

「そうか、」


 心配をかけない為の嘘だったけど、やっと普通らしい声が出せたことにほっとする。
 いつもはクールな君も、少し笑いを堪えるように言った。



「じゃあ公園に寄らないか?」



 わたしは久しぶりの笑みと同時に、いいよ、と返事をする。
 信号が青になり、帰り道の右とは反対の、薄暗い左の道へと抜ける。
 なんだか不思議な心地だ。今日の今日まで恋焦がれ続けていた豪炎寺修也くんがここにいる。わたしのすぐ隣に、肩がぶつかりそうなくらい近くに。
 商店街から遠ざかるにつれて、だんだんと電灯が少なくなってきた。
 目に見える範囲でところどころにぽつんと配置されている様が少し物悲しい。
  
 そのまま、何も喋らずに、どれくらい歩いたのだろうか。
  
 公園———正しくは河川敷———のサッカーコートが階段の下にひっそりと佇んでいる。

 わ、と驚いたように小さく口を開けたわたしに君が言う。



「おまえの家は向こうのほうだから、こっちの道は知らなかっただろう」


 なんていうんだろう。自慢げ、というよりかは懐かしい表情でここから遠くを眺める。


「うん・・・でも、こんな場所があるのも知らなかった」

「フッ、そうか」



 わたしもそっちに顔を向けると、川が流れていた。
 月の光がきらきらと反射している。
 またしても声を上げたわたしを置いて君は階段へ足を踏み出した。風が吹いてはためく、鮮やかなオレンジ色をしたパーカのフード。それを目印に後を追いかけるようにして階段を下りる。
 足元に注意していたから気がつかなかったけど、下りた先には。


 ———不思議な光景がわたしを待っていた。



 これは一体全体どういうことなんだろうか。

 足がすくんでしまったわたしに構わず、君は、そこで思い思いに時を過ごしていた彼らのなかに混じる。
 サッカーコートに散らばった彼らはみんな、わたしを歓迎しているみたいだ。

 夢なのかな。これは夢。再び手に力が入る。
 これは夢。だから、こんなことで泣いてちゃ駄目。



 満足そうに歯を見せてにかっと笑う人。

 照れくさそうに顔を背ける人。

 わたしの名前を呼びながら駆け寄ってくる人。



 そこには、今までずうっと憧れていた君と、君たちがいた。








「———待ってたぜ、白鳥っ!」




「白鳥さーんっ!」




 なんでだろう、懐かしい面子。懐かしい笑顔。懐かしい声に懐かしい景色。


 ———あたまのなかでくるくるまわるそれがパズルのピースのように合致したときには、もう涙が堪えきれなくなっていた。