二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

せんそう ( No.8 )
日時: 2012/07/14 23:15
名前: 無雲 (ID: C5xI06Y8)

・攘夷時代
・佐柳と緒方
・シリアス
・銀魂内の日本の歴史捏造


———せーんそっ

「へ?」
拠点のとある一室。医学書の整理をしていた緒方の口から間抜けな声が漏れた。
彼の視線の先にいるのは一人の青年。最近攘夷軍に入隊してきた佐柳高雪だ。
佐柳は本来黒柱隊の所属なのだが、新入りということもあり様々な隊の雑用を挨拶がてらに行ってる。
今日の挨拶(手伝い)は緒方の医学書整理なのだ。
「あ、すいません。変なこと言って。」
佐柳は、どこか遠くを見つめていた目を手元に戻す。
灰白色の髪がパサリと流れ、彼の顔を隠した。
「……さっきのどういう意味?ああ、言いたくないなら言わなくていいんだけど。」
しばしの間を置いて緒方が尋ねる。
彼としてはなるべくさりげなく言ったつもりなのだが、佐柳の顔が強張るのを見て最後の一言を付け加えた。
佐柳とは別段仲がいいわけでも、悪いわけでもない。しかし、右も左も分からぬ新人を困らせるのは不本意だ。
そう思っての一言だったのだが、佐柳は強張った顔を少し緩めるとまた遠い目をして口を開いた。
「ウチの故郷———讃岐(さぬき)には『せんそう』っちゅうじゃんけん遊びがあるんですよ。」
自身の右手に視線を落とすと、佐柳は握り拳を固めた。
「『グー』は『ぐんかん』。」
続いて、握り拳の人差し指と中指だけを立てる。
「『チョキ』は『ちょうせん』。」
そして拳が完全に解かれ、彼の長く白い指がのびた。
「『パー』は『はわい』。」
佐柳は苦笑しつつ、開かれた掌(てのひら)をまた閉じた。
「小さい頃は無邪気に遊んどりましたが、今思えばひどい遊びですよね。」

今から二十年前まで、日本は朝鮮・米国と外交上の問題から小競り合いを繰り広げていた。
そんな状態が長く続いていれば、『いずれ戦が起こる』という人々の不安が高まるも必然である。
戦いを恐れる国民の戦意を鼓舞するため、幕府は様々な政策を打ち出していた。
しかし、それから間もなく天人の襲来により攘夷戦争が始まり、日本とその二国との小競り合いどころではなくなってしまったのだ。

佐柳の言うじゃんけん遊びも、かつて幕府が奨励した遊びのひとつなのだろう。
緒方はわずかに眉根を寄せ、彼の手を見つめた。
———讃岐の子は今でもこんな遊びを……。
意味を知らないとはいえ、あまりにもむごい。
幕府は無邪気な子供たちに、幼い頃から戦に肯定的な教育を行ってきたのだ。
「ウチの母の代では、『はわい』が『はれつ』だったそうです。」
そう言う佐柳の目は相変わらず遠いところを見ている。
そのままどこかへ消えてしまいそうなほど、彼のまとう空気は儚かった。
———ああ、そうか……。

緒方は唐突に悟った。
佐柳が儚く見えるのは、彼が『過去』を見ているからだ。
彼が見ているのは、血と硝煙にまみれた汚れた大地ではなく、己(おのれ)の育った讃岐の国。

その心は戦場にない。

「……『せんそう』なんてなければいいのに。」

思わず漏れた言葉がさすのはどちらの『せんそう』なのか。
それは言葉を口にした緒方自身にもわからない。

「何、言ってるんですか。」
佐柳は少しだけ微笑(ほほえ)む。その笑顔は今まで緒方が見た中で、最も悲しい笑顔だった。

「もう存在してるじゃないですか、『せんそう』。」

それがどちらの意味なのか。

答えられる者は、いない。




『せんそう』

(それは、無邪気な童《わらべ》の遊び唄)