二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: トゥモロー・ガール 【銀魂】 ( No.1 )
- 日時: 2012/07/20 11:28
- 名前: サチカ ◆iYEpEVPG4g (ID: IGAMlEcf)
01/メランコリー・アイデンティティ
「いやっほうぎんときー!キュートでプリティーなあかねおねーちゃんが会いに来たよー!いやあおっきくなったねえ、でも相変わらずアホみたいなツラは変わらないねー」
目の前には、赤髪の笑顔全開キチ女が立っている。そしてあろうことか俺に向けて喋っている。誰がこの女をに押し付けやがったのかは知る由も無いが、とりあえず送りつけたやつは死ね。全身を切り刻まれて死ね。待て、とりあえずこれに至ったまでを考えてみよう。
朝目覚めて、寝起きが悪かったから布団も片付けず歯ァ磨いて、定春に餌やって、いちご牛乳飲んで。朝飯か昼飯がなんだか分からない時間帯にたまごかけごはんを食ったぐらいは覚えている。
アルバイトの2人は今日はお泊り会だとか熱が出たとかで来ないらしいから、そのままぼけーっとだらだらした1日を過ごすつもりだった。録画した再放送のドラマを再生しようとリモコンを探したが、どこへ行ったのやら見つからず、真っ黒のテレビ画面が空しくあるだけだった。
そして外の空気でも吸うかと思い立って寝巻きのままチェーンロックを外して玄関を開けた。
「何で?ねえ何で?タイムスリップ?不老不死ですかあんたァ?!」
「やーねえ、でも最近は昼寝の時間とか増えてきてるしちょっと運動能力が落ちたかなあって。あと70年ぐらいでじき死ぬんじゃないかなー。けど自称16歳、心も16歳、体も16歳、いやァもう16歳ってことでいーんでない?」
「良くねーよ若作りがァ!」
「褒めてくれてありがとう、でも何をしようとこの胸の小ささは埋められないのよ! ボインの夢は叶えられないのよう! 一生若く美しいままで居られるってなら大歓迎だけど自身の容姿に満足してないままで成長が止まるってのはどうよ? 」
「ざまあ」
「うぜえ」
「会いたかったよ、銀時」
悪戯っぽい目元がにっと笑って、口元が上がる。濃い藤色の羽織が、いっそうそれを引き立たせた。
相変わらず「あの時」と同じ格好で、「あの時」と同じ言葉で。終わらない感覚というのはどんなものだろうか。その片端を味わっただけだけれど、ふと訊いてみたくなった。あかねがぱっと紙袋を目の前に出した。「たちばな」と薄碧色で書かれたそれは、いつも自分があしげなく通っている和菓子屋の名前とぴったり一緒。最初の頃の怪訝な気持ちはどこへやら消えて、むしろ感動すら、いや哀れみのほうの感動すら覚えてきた。
「ハイお土産、江戸の隠れた名店《たちばな》のお団子セット!もうすんっごいおいしいの!」
ははは、と作る笑いも無いぐらい気力なく声を出した。
「・・・何しに来たんだよホントに。つか江戸で俺への土産買ってどうすんだよ」
わけがわからないという感情と同時にこの女はわざわざ調べてこの団子を買ってきたのかあるいは俺の味覚が悲しいことにこの年齢詐欺女と同じだっただけなのかどちらであろうかと迷う。どちらでも嫌だ。
結局こいつは頭がすっからかんな原始生物だから、とい理論に基づいてその辺の売り文句に引っ掛かって買ってみただけなのだろうと結論づけた。
この年代の少女というものはパフェだのアイスクリームだの新しいものが大好きではなかったか。
「ごめんお前少女でもなかったな」
ああ、と頷くと気に障ったようで紙袋の上側がぐしゃりと潰れた。そうしたらさっきの厭味ったらしい顔ではなく薄ら笑いを顔に貼り付けた。噛み付いてくると踏んだのだが、彼女は息を吐き出して紙袋を差し出した。
図々しい物言いも相変わらずだが、ちいとばかし気を抜けば小さく丸め込まれてしまう。銀さんは遊ぶ方なのに、と心なしか悔しい。まるで手のひらで転がされているような感触で、やっぱりその辺は自分達より年上なのだなと感じさせられる。
じゃあとりあえず上がらせてもらうわね、とおかしな声が聞こえ、無理矢理扉の隙間から室内へ入り込むキチ女。靴を投げ出して足早に手前の部屋へ入っていった。がちゃり、と鍵の音のようなものが聞こえたから、きっと部屋を閉めやがったにちがいない。
ふざけるなよ。意地でも開けてやろうと意気込んだ。