二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: トゥモロー・ガール 【銀魂】 ( No.2 )
日時: 2012/07/20 17:45
名前: サチカ ◆iYEpEVPG4g (ID: IGAMlEcf)

 三時間ほど前のことである。


「諸君! 世の中には、ブラック会社というものが存在する。というか、この世の働く場所、つまり社会というものは理不尽なことだらけなのだ! 普段どんなに努力を惜しまないでいても、つまるところそんなものはちっぽけなことにしか過ぎない。残念ながら労働者を守る法など軽視されているのが現状だ。……そして平社員の最大の敵は、上司という史上最悪の生物である! 第一に我々はこの避けることのできぬ災厄をどう凌ぎいかにして撃破するかを目標とし…」

「はあ」

 マスクをしたメガネの青年、とオレンジ髪の楽しげな中国系少女がひとり。悲しい顔をしながらわたしの話を聞いている。聞けば、ある会社で働いているのだが、雇用者は給料も払わないし無理難題を押し付けるし勝手で無能だと、そういうことで悩んでいるらしい。よくよく見れば、どちらも細っこくて食べるにも困っているのではないか。
 因みにこれは「就職氷河期と労働の限界〜社会の今を生きる〜」の第2部冒頭部分である。全く酷い奴もいるもんだ。こんな大人になっちゃいけないなあと息を零した。

「そろそろ停車駅かな、バス代工面ありがと、青年よ!」

強いて言うならわたしもまんざらではないのだが。そうだお礼、と鞄の中に入っていたいつぞやのクッキーを投げ渡す。バスを降りると、陽のひかりに晒された翠色の葉桜がきらきらと光っている。バスの排気ガスと車体の熱気が空気を伝わってくる。やわらかな笑みにすこし汗を滲ませ、額に手を当てた。


02/ホワイトカラー・エグゼンプション



「銀さーん、明後日に仕事取れたんですけどどうします? 遅くなりましたけど良くなったんで来ましたよ」

 今日は万事屋にいつものメンバーの姿は無い。新八は夏風邪をひいていたし、神楽は女友達とお泊り会。新八が久しぶりの仕事を持ってきた以外には、それと変わりのない日々、になるはずだった。ただひとつの訪問者を除いては。

「あァ? 明後日?」

「何してんですかァ!?」

 言うにや早く、新八がドアに走り向かう。自宅件事務所の扉を開ければ必死の形相でリビングの部屋のドアを開けようとしている銀時の姿。とうとう狂ったかと心中にその言葉をとどめ、銀時をドアから引き離す。

 きゅるきゅる、と小気味良い音がペン先で鳴った。
あかねの視線の先には白髪頭の男の写真———言わずもがな、銀時が映っている。安っぽいプラスチックの写真立てに飾られた貧相なそれには、その白髪頭を囲うようにしてふたりの人物が映りこんでいた。どうも見たことがある顔だと思えば、朝のバスでの二人にそっくり。果てさてどうしたものか。

 尚更、銀時の生気の無さが際立つ一枚である。死んだ魚のような目が、いかにも面倒そうにレンズを見つめているのがありありと脳裏に浮かぶ。そういえばドアを叩く音と罵声が聞こえなくなったなあとそろりとそちらへ足を伸ばした。

 ばこ。
ああ嫌な音が、気付くも時既に遅く、耳を覆う音と沸きだつ埃の砂。粉砕されたドアの下から白い手が伸びる。あかねが瓦礫を避けながら抜け出すと、銀時の背後に写真の彼が立っているのを見つけ声をあげた。

「あー! 新八くん!」
「・・・・・・あ! どうもあかねさん」

「え? 何? お前ら知り合い? 新八お前このキチ女と知り合い?」

「と、するとだな、なるほどー、銀時があの」
「ええ」


 相槌を打ちだす二人に、銀時は困惑するばかりであった。粉砕されたドア、と髭を書き足された銀時の写真を後目に、あかねは銀時の方を見て笑ったとか笑ってないとか。