二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: サマーウォーズ 【漆黒の天才ハッカー】参照600突破!感謝! ( No.30 )
日時: 2012/08/21 22:35
名前: ソウル (ID: HTIJ/iaZ)


【エピソード3】


「聖美さーん?いる?」

夏希はふすまごしにそう問いかけると同時に、ガラッと勢いよく居間のふすまを開いた。

「あれ?誰もいないですね……」

健二は夏希の後ろから室内を覗き、小首をかしげた。
夏希は腰に手を当て、「もうっ」と声を漏らす。

「どこ行っちゃったのかなー……万理子さんは聖美さんいるって言ってたのに!陽奈美ちゃん、佳主馬か聖美さんとしか一緒にいないし……」

そう言うとハァっとため息をついた。
彼女にしてはかなり珍しい。

「大丈夫ですよ。夜会えるじゃないですか」

健二は夏希の肩に手をかけ、穏やかな笑みを浮かべた。
すると彼女はその大きな瞳を細め、唇の端をキュッと上げる。

「そうだねっ」

途端に健二の顔色が変わった。
悪い方向ではない。それこそゆでだこの再来である。

「健二君?顔赤くなって」
「し、指摘しないで下さいよ……!」

顔を赤らめそっぽを向く健二を、夏希は不思議そうに見上げた。
彼女も彼女で、自分のことにはびっくりするほど鈍感である。




「なぁ、佳主馬お前いつの間にここに戻って来たんだ?」
「いつでもいいでしょ?」

佳主馬が普段こもっている小さな納戸で、天神は彼に話しかけた。
足を投げ出して完全にリラックスモードである。
そんな天神に、佳主馬も呆れ顔で聞き返す。

「黒鳥こそ、いつのまにこの『家』に入ってきてたの?」
「やだなぁ佳主馬!そんな他人行儀な言いか」
「いつ?」

佳主馬はヘラヘラと笑っている天神の言葉をとぎり、再び訪ねた。
天神はそれを気にせず、二カッと歯を見せる。

「里佳子さんがいれてくれた」
「……万里子さんのこと?」

天神は一瞬目を見開いて固まった。
だがすぐに「その人っ!間違えたわ」と頭をポリポリとかいてごまかす。

「なんて言ったらいれてくれたの?」
「え?普通に友達って伝え」
「出雲、この人何とかして」

友達と言おうとした天神から目をそらし、佳主馬はパソコンの横で体育座りをしていた出雲を振り返った。
出雲は苦笑いを浮かべ、佳主馬と天神を見比べる。

「天神はうざいし、佳主馬は冷たいね」
「うざいってお前!」

天神はガタッと音を立てて立ち上がったが、出雲はすぐに右手に握っていた携帯に視線を合わせた。
まったく興味がないようだ。

「僕が冷たいのは、黒鳥が友達になりたい相手が僕じゃないからだけど」

佳主馬はそれだけ言うとパソコンの前に座り、OZのページを開いた。
そして現れた長身の兎の姿のアバターを指さし、不機嫌そうに呟く。

「黒鳥が言ってるのは……キング・カズマのほうでしょ」
「おいおい、どんだけ信用されてないの俺……」

佳主馬の言葉にガクッと肩を落とす天神。
そんな彼に、出雲は携帯の画面を見つめたまま愉快そうに笑った。

「キングねぇ……ま、自業自得だよ。あれだけ女の子とっかえひっかえしてたらさ」
「とっか……!お前、俺まだ中二なんですけど」

天神はブスッと唇を尖らせ、手を組みプイッと顔をそむけた。
出雲は相変わらず気にせず、また携帯のボタンを高速で押している。
佳主馬もキーボードをたたいているが、チラリと横目で出雲を見た。
カチカチという何とも言えない音が、妙にはっきりと聞こえていたから。

その時だった。

「……え?な、なんだこれ……!」

佳主馬は思わず声を漏らした。
両手がキーボードから離れ、汗ばんでいる。
三白眼を驚愕に揺らす彼の声は、普段の何倍も焦っていた。

「どうした?佳主馬」

背をむけていた天神が、漏れ出した佳主馬の声に振り返る。
佳主馬は返事をしない。
ただただじっとパソコンを見つめている。

「佳主……!」

心配そうに画面を覗き込んだ天神は息をのんだ。
言葉は出なかった。

画面の中のキング・カズマの黄色く染まった凶器に満ちた瞳。
そしてニィッと口角をゆがめ、OZの世界を壊し始めたその光景に。