二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: レッドレイヴン 赤イ翼ノ執行人 ( No.12 )
日時: 2012/08/08 01:58
名前: 東洋の帽子屋 (元 神咲 裕) (ID: 9ihy0/Vy)
参照: 第二章終了…そして、第三章へアンディ達は歩みを進める

「それじゃあ、お世話になりました」

まだ太陽の昇りきっていない、薄暗い街の一角で子どもたちの声は凛とした。
冷たい空気を伝って、その声は街にこだまする。

「……本当に、いいのね?」
アンナはリナージュ達に最後の決断迫っていた。
孤児院だってしばらくすればまだ使うことができる。そう、判断されたからだ。
「……はい。 私達は鴉の巣に身をおきます」
リナージュは自分の周りからついて離れない、可愛い妹や弟達の頭を優しくなでた。
彼女の目は、初めて会ったときとはまるで別人のようだった。
目のなかに希望を宿し、心なしか目付きも穏やかになった。

「そして……自由に笑って生きていきます」

ーリナージュの表情は実に綺麗な物だった。
普通に絵になりそうなマフィアとレッドレイヴンという異色の設定での光景は、背後から射した朝日が一層際立たせる。
「……そう。分かったわ。はあ、私は一体何人のレッドレイヴンと関わるのかしらね」
アンナはやれやれ、とため息をついて疲れたように目を閉じる。明らかにレッドレイヴンの第一印象をボクで決定しているようだ。
「まあ、そこいらのマフィアにはなかなかない繋がりだよね」
「なかなかじゃなくて、全くな・い。 のよ」
アンナの後ろでは部下たちがしかめっ面で僅かながらもうなずく。
その中の何人かは腰のホルダーに手を当てたまま離さない。いつでもボクの頭を撃ち抜ける、といった感じだ。
試しに足を少しでも前にずらしてみると、ホルダーにかかっている指がピクリと動く。
(……潮時か)

「じゃあ、アンナ」
「……うん」

馬が荷馬車をひきはじめる。そこに小さい子ども達は飛び乗り、沢山の荷物に身を埋めてみたり、お菓子を取り出して食べ始める。
「あ、レゴック食べてるの? 頂戴!」
「ん。いいよ」
「鴉の巣はどんなところだろうね?」
「きっと、あのロボットみたいなのがたくさんいるんだよ! 楽しみだなあ」


明るい話題ばかりで話を紡ぐ、子供達のその様子をリナージュは遠くからじっと見つめる。


このまま、ここにいたくなったのだろうか。

彼女はなかなか一歩を踏み出さない。

「…………」

と、その時。
ポンッ、とリナージュの肩にアンナが手をのせた。
「アンナさん……」
リナージュは弱々しい声でアンナを振り向く。
「ほら皆待ってるわよ」

向こうのほうで、子ども達は飛び跳ねたり手を降ったりしながらリナージュの名前を呼んでいる。
誰もが別れを惜しむことなく、次の生活に心を踊らせているのだ。その心情をみてとることができる。

……夜が明け、市場にも活気が戻りつつある午前6時。



『ゴーン……ゴーン…………』



ー 壊れた孤児院の、独特な重低音の鐘の音が、何処からともなく聞こえてきた。



「……なんでっ」
リナージュは訳がわからない、といったように目を白黒させてはアンナに問うた。
「皆が出ていくのに間に合うようにね、鐘だけさっき直してもらったの。まあ、本当に少しの時間しかなかったから急拵えだけどね」
アンナはポリポリと恥ずかしそうに頬をかく。
少しベタ過ぎたかな、と呟いてどこを向いても具合の悪い視線を空に移す。

「私、この鐘の音大好きよ」
「はい……私も大好きです」
リナージュは逆に下を向く。声を微妙にぐずらせているところを見ると、どうも泣いているようだ。

しかし、時間はない。仕方なくも後押しする。
「いくよ。リナージュ」
「……うんっ」


タッ、と。 リナージュは、さっきの様子からでは想像もつかないほどの軽々とした足取りで駆けだした。本人もその軽さに驚いたようで、思わず転びそうになる。
「……っと」
ころびかけたついで、後ろを振り返ると既にアンナは孤児院に戻ろうとしていた。
後ろを振り向きもせず、コートを翻らせながら未練なく歩くその姿は、まさにマフィアのボスと呼ぶにふさわしい。


「……っ。ありがとう…ございましたっっ!!」


リナージュの声に、アンナは一瞬歩みを止めかける。
しかし、振り返ることはしないでただ、右手を挙げると小さく左右にふった。

リナージュは黙ってそれを見届けると、すぐに馬車に向かって走り出した。
「ありがとう…ございました」
もう一言、そう呟くと二度と振り返りはしなかった。


……そうして、ボク達は鴉の巣に馬車を走らせた。


もし、神様というのがいるとしたら。

ボクは彼女の事を……………。