二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: RR 赤イ翼ノ執行人 〜人は単純だ。だから、つまらない〜 ( No.16 )
- 日時: 2012/08/08 02:45
- 名前: 東洋の帽子屋 (元 神咲 裕) (ID: 393aRbky)
- 参照: http://
「どうしたんだよ、久しぶりの再会だろ?もっと喜ぼうじゃないか」
武器を構えていても、バジルは顔色一つ変えずに悠長に語る。それは余裕からくる笑みなのかそれともこれから起こることに胸を踊らせているのか……。
「何しに来たんだよ。ここはただの孤児院だろ」
僕は当たり前のことを聞いてみた。
しかし、バジルはハッ、と笑うと哀れむような目で僕を見る。
「それはアンディがまだこの孤児院の実態を知らないからさ」
そして、ふいに宙を見上げた。
「きっと素晴らしい日になる。マフィアの時代が、本格的に幕を開ける記念日だ」
ニヤリ、と歯を見せて不吉なことを言いはなった。
「……何をたくらんでいるんだ?」
「さあな」
「俺達は、詳しいことを聞かされていない。知っていることはこの孤児院がまともじゃないって事だけだ」
「……それならなおさらだ、そこ、退いてくれない?」
しばらく、バジルは考えているように腕くみをした。そして……
「いいよ」
と、意外なことをいった。
「…………へ?」
あまりの出来事に、間の抜けた声が出る。思考がまだ追い付けていないようで、その言葉を完全に理解できない。
「いいよ。別に。俺はここに視察に来ただけだし、今回の件については完全に傍観者の立場だ」
ハアッ、とわざとらしく溜め息をして、つまらなそうに肩を落とす。
「じゃあ、何で声かけたんだよ」
「んー……そこにいたから?」
(何てマイペースな人間なんだろう)
「それより、急いだ方がいい」
フッとバジルの顔を見直す。その顔から笑みは消えていて、珍しくも真顔だった。
「……言われなくても急ぐさ」
僕はなんの躊躇もなくバジルの横を通りすぎた。一瞬、振り返ってみようかと思ったがそんな暇はない。足早にその場を後にする。
「さぁ、俺もそろそろ行くかな。ハアーッ、かったりぃ」
バジルは誰もいない回廊で、一人、呟いた。
「今度はどっちが潰れるか……見物だな」
ニヤリと笑うその不気味な笑みを、目にしたものは誰もいない。
「んー……なんか調子でないな」
シャルルは、自分でも不思議そうに首をかしげる。確かに、さっきから電子音が体の至るところから漏れていて、とてもというほどではないが気になっていた。
「……なんか、変なものでも食べた?」
「オレをそこらの鴉と一緒にするな!ロボットだぞ!!どうやって食べろって……ん……だ…………」
徐々に言葉が途切れていき、ブツンッと、嫌な音がした。それと同時に肩からシャルルの体が離れていき、地面に 何の抵抗もなく落下する。
「シャルル、どうしたの??」
シャルルを拾い上げようと、手を伸ばしかけた。
「ん?…………湯気がたってる」
(もしかして……)
「あつっ……やっぱり、壊れてる」
何でだ?シャルルは物を食べられるわけでもないし、さっきの軽く叩いたくらいじゃ壊れない。
この孤児院に来てから、僕の他にシャルルに触ってた人物は……。
『ベス、早くいこうよみんないっちゃうよ〜』
『え〜っ、喋る鴉もっと見たい!!』
「あいつら……っ」
バジルのいった通りだ。
この孤児院は、普通じゃない。
ガガンッ、という音をたてて建物崩れる音がする。
地面が揺れ、まともに立っていられない。
「つっ……早く、この件終わらせないと」
さっさとここを脱しなければ、瓦礫のしたに埋まって終わる運命だ。
……考えている暇はない。
僕はシャルルを抱えて、いく宛もわからずに走り出した。
「クソッ……どこにいる…………リナージュ……マントハッタ!!」
ステンドグラスの無数の美しい光が、聖杯堂に降り注ぐ。
しかし、そこは聖杯堂というよりは戦場の跡地という方が妥当だった。
壁画に大きな穴が空き、そこから風が入り込んで土埃を巻き上げる
「ごほっ……ヴー……ちょっと頑張り過ぎたかな……」
「大丈夫?リナージュ姉ちゃん」
「うん。それより、ベス。あの喋る鴉どうした?」
「ああ、あの鴉?今頃ぶっ壊れてんじゃないかな。配線を二、三本切っといたし」
ベスはズボンのポケットからペンチを取り出した。
「エライエライ。アンナさんの話だとあのレッドレイヴンは方向音痴らしいから、しばらくはここにたどり着けないでしょ」
(さて……)
少し派手に壊しすぎた。きっと、アンナさんがすぐに駆けつけてくる。
どうする……ちょうど、スキャックズを持ったマフィアが彷徨いていたようだし、そいつらにやられたとでも言っておくか?
「それとも、レッドレイヴンにやられたとするか……?」
「そんなこと、させない」
ヒュッ、と何かが顔スレスレを通り抜けた。
後ろをふりかえると、大きなギロチンが壁に突き刺さっている。
そのギロチンには鎖がついていて、足元を蛇のように這っている。
「ちっ……運は強いんだね。お兄ちゃん」
リナージュは舌打ちすると、子供らしくない、感情の深く入った表情をした。
「運じゃない。これが結果だ」
ギロチンを引き寄せると、再び右手に握りしめる。
何故か、いつもより握る力が強いようだ。手が血色良く赤らんでいる。
「残念だ。今の僕は判定書の出ていない君を狩れない」
僕は、相手を睨んだつもりだった。
しかし、
「アッハハハ!!」
と、リナージュは高笑いする。
「…………」
「どうしたの?何故黙るの??」
まだ笑いが抜けきれないようで、言葉の至るところでククッ、と微笑する。
「……君は僕と同じだと思ってた。でも、違う。君は僕以下だ」
「……何?」
表情から笑いが消え失せて、段々と目をつり上げる。
「私のどこが、お兄ちゃんより劣っているの?」
リナージュは両手を広げて、くるりと軽やかに回転する。
「ほら、どこが劣っているというの?」
「確かに……傷や血にまみれている僕と違って、外見は君の方がいい。……劣っているのは中身だ」
「中身??」
「そう、中身。君は心から笑おうとしない。どこかぎこちない」
リナージュの顔をチラリと見やる。ただ、呆然としているだけで特に何の体勢もとっていない。
(攻撃する気は無いのか……?)
「でも、それはお兄ちゃんにも言える事じゃ無いの?」
「…………確かに」
確かに、その言葉には何の間違いも無い。
僕はこの孤児院に来てから一度も笑っていないし、笑おうともしていない。
そういう意味では、僕の方が劣っている。
でも……。
「確かに僕も、一部の感情が欠落している。でも、君よりは人間らしい心を持っている自信がある」
そういうと僕は天井を見上げた。
しかし、そこには青空が見える。暴動で崩れた穴から覗いているのだ。
「……どうやってそれを証明するの?」
リナージュの凛とした声が空っぽの孤児院に響く。
……物がないから空っぽと言う訳じゃない。
思い出が、空っぽなんだ。
「僕なら、思いの詰まった宝箱を無理やり壊して開けようとしない。そこに詰まっている物が、なんだか解っているからだ」
「それは何?」
まだ、解らないという顔をする。その垣間見える子供らしさに、敵意を忘れそうになる。
「……仲間だよ。それと、思い出」
『はよーっす。カルロ裁判官。今日も寝癖、酷いっすね』
『……これは天然の物なのだよ。君はいつも一言多いようだな』
『二人とも、そのやり取り何回目??』
『おっ、アンディ。おはよ』
『アンディ、君は少しはフォローに回るとかしないのかね』
『アンディ』
そう呼ばれることが、レッドレイヴンに留まる理由な気がした。
「なんで、壊したんだここは君らの思い出の場所だろ?」
「…………」
リナージュは、少し考えているように見えた。
しかし、突然思い出したように目を見開く。
「…………邪魔だったから」
「……え?」
(今、なんて…………)
「そうよ、邪魔だったから消し去りたかった。……思い出??思い出って何?この孤児院には、マフィアに対する憎しみで満ち溢れている」
いきなり饒舌になる。もう、黙ってなんかいられない。そんな感じだ。
「毎日、毎日毎日マイニチ周りの誰かが消えていくの。それで友達も、何もかもが消えていった。それもこれもマフィアのせい。でも、そんな私を救ってくれたのもマフィアだった」
……アンナの言っていた通りだ。ここの子供たちは、マフィアにいい印象を持っていない。