二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: RR 赤イ翼ノ執行人 〜人は単純だ。だから、つまらない〜 ( No.18 )
日時: 2012/08/08 02:57
名前: 東洋の帽子屋 (元 神咲 裕) (ID: 393aRbky)
参照: http://

「さて……」
一息ついたところで、色々な問題が浮上してくる。
まずは壊れた孤児院をどう説明するか。
それから、子供たちの行先……。
しかし、何よりも厄介なのはバジルがいるという事だ。
今のところは再び姿を現してはいない。……奴は自分の事を傍観者と言っていた。一体、どこから見ているのか…………。
「…………」
「どうしたの?怖い顔」
子供の一人が顔を覗き込んできた。何も知らない、無垢な目をしている。
(……下手に心配させる必要はないな)
「いや、何でもないよ。それより、君達が今後どうするかだ」
「あ……」
リナージュはパッと青ざめた顔をした。
「そっか……壊しちゃったから…………」
孤児院は所々が大きく壊れていて、天井に穴が空いている箇所もある。……修復は極めて難しい。
「さて……」
「アンディーっ!」
突然の声に振り返ると、扉の無い聖杯堂の入り口にアンナが息を切らして立っていた。
「っはー……一体、何があったの!?」
アンナは意味が解らないといった感じだ。焦っているせいか、何度も舌を噛んでしまう。
「あー……考える余裕もくれないか」
「えっ?なんか言った??」
「いや、何にも。……それよりアンナ」
「何?」
僕はチラリとリナージュを見た。もし、ここで本当の事を喋ったらリナージュ達の安否が怪しい結果となってしまう。
「…………」
(まあ、いいか)




(……バジルには悪いけど、全部擦り付けるかな)
「あのさ、アンナ……バジルってマフィア知ってる?」
「ああ、No.入りのスキャッグスを使う噂のマフィアね。知ってるわ」
アンナは目を細めて記憶を手繰り寄せ、うなずいた。
「噂によると白い服が印象的らしいわね」
通常、マフィアは黒や灰色など、比較的色の暗い服を選ぶ。
しかし、バジルに関しては帽子から靴、ネクタイまで真っ白で、唯一色のついたシャツは黒というモノトーンな珍しい風貌をしている。
「うん。それで……バジルがこの孤児院に潜んでいるみたいなんだ」
「なっ……」
アンナは一瞬戸惑い、大きな声を出しかけた。が、すぐに飲み込み「なら」と小声で言葉を続けた。
「なら、今回のこの騒ぎを起こしたのはそのマフィアだって言うの?」
「多分、ね。中庭で子供たちと遊んでた時にいきなり孤児院が崩れ出したから」

「……」
リナージュは子供たちを相手にしながらも、時々こちらの様子を確認する。
フッと僕と視線があうと、申し訳なさそうに目をそらして『ごめんなさい』と声を出さずに言う。
「…………」
「アンディ、どうかした?」
アンナの言葉にハッ、と我に返る。そして、景色扱いだったアンナの顔がはっきりと見えてきた。
「……いや、何でもないよ。それで、この孤児院どうするの?」
僕とアンナは穴が空いた天井を見上げる。
「うーん……やっぱり、修復は難しいわね」
「じゃあ、この孤児院は……」
するとアンナは、僕が言いたかったことを予測していたように
「うん。閉院せざるを得ない」
アンナは子供達に聞こえないように小さな声で呟いた。
しかし、
「!」
と、リナージュはその小さな声にも敏感に反応する。小さな背中が僅にビクリッ、と震えた。
「……子供達はどうするの?」
再度リナージュと目があった。今度はそらそうとない。
碧の大きな瞳が、静かに決断を待つ。

そして、アンナの決断は
「うーん……他の孤児院に協力してもらって、何人かずつ分割して入ってもらうしかないかな…………」
という物だった。


(…………さて、リナージュはどうでるかな)
しかし、その決断を聞いても不思議とリナージュは絶望している様子は無い。
そして、心の内で思っていた事を決めたように
「あのっ……!」
と、リナージュは大きな声を聖杯堂に響かせた。


その頃、レッドレイヴン本拠地『鴉の巣』
「あー……マジダリィ」
自室に戻ったウォルターは、靴を履いたままベッドに倒れ付した。
「まさか、あれほど田舎だったとはね……」
アラバントから鴉の巣まで、歩くほか通行手段が無いと聞いてから、ウォルターは重い棺桶を背負って約四時間、休むことなく歩き通し、ついさっきたどり着いたところだった。
「あー……背中と腰がバキバキいってら」
ウォルターが腰を擦っていると、ガチャリッ、とドアが開きそこに満面の笑みのカルロと秘書のモニカが立っていた。
「ご苦労だったね。ウォルター君。アンディはどうした?」
「アラバントの孤児院に預けてきた。今頃、あの子供達に苦戦しているな……」
ウォルターは遠い目をし、苦い記憶を思い出す。
「うん……子供ってのは怖いな。ってか、何でカルロはそんなに笑顔なんだよ?」
「君たちへの、せめてもの気遣いだよ。ほら、笑顔は人を和ませるだろう?」
ハハハッ、とカルロは爽やかに笑うが、ウォルターはそれを逆に気味悪がる。
「……あんたがそういう風に笑うってのは、大抵仕事の話なんだよな」
ウォルターが深くため息をつくと、カルロは
「ご名答」
と、口角を上にニヤリ、と吊り上げて笑う。
「残念だが仕事の話だ。君には、ザップヘンドタウンに行ってもらう。モニカ、資料を読み上げてくれ」
「ザップ……ヘンドタウン?」
聞き覚えのない場所だ、とウォルターは呟く。
「はい。えーと……ザップヘンドタウン。ここから東南に数キロ行ったところにある、機械工業の盛んな町です」

「ザップヘンドでは戦闘機に使用する超重要部品から自転車に使うギアまで、幅広い科目で高い評価を得ています。近年ではさらに視野を広げ、子供向けの玩具の研究が進んでいるそうです」

モニカの説明を一通り聞き終えると、ウォルターは『ふーん』と興味津々に相づちを打つ。
「じゃあ、バイク関連の部品もあるかもな」
最近、バイクがうまく動かない。そのせいで今回は帰りが徒歩になってしまった。
行きは運よく通りすがりの旅商人に途中まで乗せていってもらったが……。
「……で、そのザップヘンドには何しにいけばいいんだ?」
ウォルターは机の上に出されているコーヒーを取ると一口すする。
(また、昨日みたいなのはごめんだな……)
そう、ウォルターが思っていた時だった。
「いやね、それがまた昨日みたいな仕事なんだよ」
「えっ……」
不覚にも本心からの声が出てしまった。それどころか顔の表情までを微妙にかえ、心底子供が苦手になってしまったのがみてとれる。
「それじゃあ、頑張ってくれ。事態は一刻を争うぞ」
カルロは詳細の記された書類をウォルターに放り投げる。
……もはや発言する権限さえも与えられない。そう感じ、ウォルターはまだ宙を舞っている書類をわしずかみにした。

視線を書類に落として数秒。
「…………これって」
と、確かめるようにカルロの方に顔を向き直る。
カルロはすでにほかの仕事に入っていて、ウォルターをチラリと一瞥すると
「楽しくなりそうだろ?」
とだけ言った。
「……まあ、たまには社会見学もいいかもな」
ウォルターはニヤリと笑うと、片手に持っていたコーヒーカップを机に戻し、わざとらしくため息をつく。
「……それじゃあ、そろそろ行きますか」

「あのっ……!」
リナージュの力強い声が聖杯堂に凛と響いた。
決意を心に決めたようで、その碧色の瞳に緩やかな光が灯る。

そして、リナージュの声にまわりが誰一人と喋らなくなり、外の野次馬達のざわめき声がよく聞こえてくる。
……そんな状況が数秒続き、そのなかで再び口を開いたのはリナージュだった。

「…………私達をレッドレイヴンにおいてもらえませんか」
リナージュの声色は、実に真剣だった。別に冗談を言っているわけではない。
ただ、この状況で、そんな唐突な事を話しても頭がおかしくなったとしか思われない。
「え……リナージュ、なんていった?」
案の定、アンナはもう一度リナージュに確認をとる。
「"レッドレイヴン"においてもらいたいと言いました」
リナージュはレッドレイヴンという所を特に強調し、真顔でアンナに返答する。
「レッドレイヴンに……」
アンナは素早く僕の方を振り向く。その顔はぎこちなく笑っていて、どうにも感情のコントロールができていないようだった。
『……無理よね?』
と、アンナはどうにかして目で訴えてくる。