二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【イナgo】少年たちのRhapsody ( No.14 )
- 日時: 2012/09/23 19:05
- 名前: 葉月 (ID: eldbtQ7Y)
【第五話・使命】
「例えば……そうですね」
Iは何か考えているかのように伏し目がちになった。
長い金髪がかすかに揺れる。
そしてふと顔を上げ、その碧眼で天馬を見つめた。
「奴隷とか言ってませんでした?」
天馬はハッとして口を開く。
「うん!神童先輩が、奴隷を解放したって!」
「おそらく彼はこの世界で、奴隷となっているたくさんの人々を救う活動をしているのでしょう。簡単に言えばここの正義をつかさどります」
「正義……」
天馬はぽつりとIの言葉を復唱した。
(神童先輩らしいや……)
心の中でそう呟き、安どのため息をつく。
彼が正義であることは、このよくわからない世界と自分の世界の、唯一の共通点に思えたのだ。
しかしそんな一時の安心は、Iの次の言葉によって打ち砕かれた。
「ですから反対に、彼と敵対している様子を見せた霧野蘭丸は、この世界の悪をつかさどります」
「き、霧野先輩が……悪?」
冷めた視線をむけながら言うIに、天馬は声をひきつらせた。
神童の一番の理解者である彼が悪。それは重い嘘のようにどろりとした感覚になる。
顔色を悪くする天馬を気にせず、Iは思い出したように白い細腕を突き出した。
小さな拳で何かを握っている。
「これは?」
「手を出してください」
「……えっと……」
天馬は戸惑ったように眉を下げた。
Iは強い光をおびた目で天馬を見つめる。
「うん……!」
天馬は意を決したようにうなずき、彼女の手の下で掌を開いた。
そこでIはパッと手を離し、握っていたものを天馬の掌へと落す。
「あっ!これ……!」
天馬は驚愕に瞳を見開き、それとIを交互に見詰めた。
Iはキュッと目を細め、美しい微笑を作る。
「あなたの化身……ここではロケットに入っているので」
彼女の渡したそれ……
それは淡い光を放つ碧い宝石の入ったロケットだった。
「ここでは化身を、能力と称してロケットに封印しています。神童拓人のように普段化身を出すようにすれば召喚できますよ」
「なんか……妖精みたいだね。ちょっといかついけど」
苦笑を見せる天馬に、Iは続ける。
「この世界で能力は恐れられています。何人か束にになったり、よっぽど強い異能力でないと対抗できないからです」
「だから霧野先輩は?」
「ええ。おそらく彼の率いていた人間は異能力を持っていなかったんでしょう。彼の異能力も見たところ攻撃より防御に長けている。だから4神童拓人が術を発動する前に撤退しなければ勝ち目がなかった」
Iは「プライドのことを気にする余裕なんてないんです」と小声で付け足す。
そして天馬を見据え、小さく口を開いた。
「この世界では剣を用いた戦いなどが起こっています。天馬君はこの世界の秩序をもとに戻す必要があるんです。この世界を平和にし、登場人物を幸せにすれば、あなたは元の世界で生存者として生きることができます」
「俺に……そんなことが?」
不安そうな天馬に、Iはしっかりと頷いた。
「できます。あなたが元の世界から消されたのは、未来の人間が貴方の大きな力を恐れたから。……天馬君」
Iはいったん天馬の言葉を区切り、彼の手を自分の手で包み込んだ。
天馬は「えっ……?」と声を漏らし、頬を赤く染める。
Iは再び穏やかな微笑を彼にむけた。
「私はずっとあなたを見守って、あなたを導くつもりです。安心してください」
その静かで優しげな声に、天馬は思わず問いかけた。
「……あのさ、君はどうしてそこまでしてくれるの?」
Iは小首を傾げ「そこまでとは?」と聞き返す。
「だって初めて会ったとき言ってたよね。『そのために私はここにいる』って。それって俺を待ってくれてたんでしょ?今回だっていろいろ教えてくれたし……君はいったい……」
Iは突然空を見上げた。
広々と広がる真っ青な空を。
「今本当の私がいるところは……空なんて見えません。無限牢獄と呼ばれるところです」
「無限牢獄?」
「ええ……。私はエルドラドの期待にそうことができなかった……」
唐突に始まった話を理解できず、天馬は頬をポリポリとかいた。
分かるのは、エルドラドが自分を消した存在であるということだけである。
「私にそうさせたのは……フェイ・ルーンという少年です。私はあの人に感謝している」
「どうして?その人が君の仕事を失敗させたんでしょ?」
「はい。でもその代償に、フェイは大切なことを思い出させてくれた」
「大切なこと……?」
Iは輝く太陽にその細腕を伸ばし、太陽を掴むようにこぶしを握った。
「サッカーの面白さ……ですよ」
「えっ!?Iもサッカーやってたの?」
驚く天馬に、Iは小さく頭を動かした。
そして再び天馬へと向き直る。
「天馬君は未来で、フェイの力になってくれる。きっとエルドラドさえ倒すでしょう。あなたの使命はこの世界を正すこと。私の使命は……」
「あなたを導き、フェイを救うことなのです」