二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【イナgo】少年たちのRhapsody ( No.4 )
日時: 2012/08/14 17:44
名前: 葉月 (ID: .uCwXdh9)

【第一話・出会い】



「……ま君」

誰かが天馬の名前を呼んだ。
天馬の眉が、ピクリとよる。

「天馬君、起きてください」
「ん……?」

澄んだ綺麗な声が耳に届き、天馬はゆっくり瞼を開いた。
視界には長い金髪に大きな碧眼の、見覚えのない少女がうつる。
天馬は上半身をおこし、あたりを見回した。

「え……?」

そして思わず声を漏らす。
信じられないその光景に、思わず少女を振り返った。
少女は立膝を突き天馬に視線を合わせていたが、ふいに立ち上がる。
すそに白いレースのついた水色のワンピースが、そっとゆれた。

「何もないでしょう?」

呆然としている天馬に、そう静かに問いかける。
天馬は彼女の瞳を見据えた。
膝に手を当てて立ち上がる。

「ここは……?」

そして両手を広げて見せた。
天馬の後ろには真っ白な世界が広がっている。
真っ白というのは、雪原とかそういう意味ではない。
ただ、壁も床も真っ白な終わりの見えない、それこそ永遠に続くんじゃないかという空間なのだ。
少女は小さく口を開く。

「ここは……『無』の空間です、天馬君」
「『無』の空間……?あっ、なんで俺の名前……!」

天馬はわけもわからぬところにいる自分と、自分の名を知っている少女の両方に混乱したのだろう。
怪訝そうに眉を寄せつつ、あたりをキョロキョロと落ち着かない。

「私の名前はⅠ、そのままアイって呼んでください」
「Ⅰ……?変わった名前だね……」
「はい、暗号名ですから」

Ⅰは静かにそう言い放った。

「暗号名……?なんでそんな」
「忘れてしまいましたか?」

天馬が問いかけようとした途端、Ⅰは再び口を開いた。

一瞬ひるんだものの、天馬もすぐに「なにを?」と聞き返す。
Ⅰはフッと妖艶な笑みを浮かべた。

「あなたは死んでしまったでしょう?」

Ⅰのその言葉を聞いたとき、天馬の頭の中で火花が散った。
まるで先ほどの出来事のように、鮮明かつ残酷にあの出来事が蘇る。
あの花に囲まれた自分の写真を———

「そうだ!俺……気づいたらお葬式やっててっそれで!」
「落ち着いてください」
「え?あの、落ち着いてって言われても……俺ほんとに死んでるんですか?」

そうぼやき、天馬は困ったようにしゃがみこんだ。
なんせ自分には死後見えてしまったと思われる記憶はあっても、その原因になるようなことはまるで思いつかないのだ。
交通事故にあった覚えもなければ、自殺をする理由もない。

「あなたは死んだというよりも、存在を『消された』のです」
「けっ『消された』!?俺が……?」
「はい。あなたは未来の人々にとっての脅威となることが判明してしまった。だから自分たちと出会う前の時代で消すことにしたんでしょうね。」
「ちょ、ちょっと待ってください!俺全然話が読め」
「ただ消すだけでは時空に歪が出てしまう。結果的にはそれを避けるために『死』ということで処理したんでしょう」

慌てて上ずった声をあげた天馬を無視し、Ⅰは淡々と言った。
無表情で冷酷な声。

天馬は飲み込めない状況に、ただただ愕然と目を見開いた。
このときばかりはお得意の何とかなるさっも出てこない。
Ⅰはそんな天馬をチラリと横目で見ると、またも表情を変えずに言った。

「天馬君、エルドラドという組織をご存知ですか?」
「エル……なんだって?」

小首をかしげる天馬に、Ⅰは「やはり」と声を漏らす。

「エルドラドは、今からおよそ200年後の未来においての最高意思決定機関です」
「200年後……!?」
「プロトコル・オメガと呼ばれる人間たちは?」
「いや、それも聞いたことは……あのいったいどうなってるんですか?」

天馬は進んでいく話に、不安そうにⅠを見上げた。
Ⅰは天馬にその碧眼をむけ、静かに言った。

「あなたは200年も先の人間に、もうすぐ仲間とともにはむかいます。そこであなたは相手にとって、危険で邪魔な存在となる」
「つまり……その人たちが俺のことを……?」
「そうなりますね」

Ⅰは興味なさげにそう言った。
天馬はハッとして彼女を見る。

「葵や神童先輩たちは、今どうしてますか!?」

天馬の頭の中には泣きじゃくる葵や、悲しそうな神童たちの顔が思い浮かんでいた。
ぎゅっとこぶしを握り締める。

「サッカー部の方々ですか?あなたの死後1か月がたっていますが……状況は変わりません。なかなかうまくことが進まないようです」
「そうなんだ……」

天馬はそう呟くと、彼女を再び見上げた。
そして勢いよく立ち上がった。
先ほどまでは弱弱しかったその瞳が、今は強い光をおびている。

「なんとかならないんですか?」
「……え?」
「俺こんな結果は嫌です!もし方法が何かあるなら……なんでもします」

突然意識を取り戻したように声を張った天馬に、Ⅰは少々たじろいたようだ。
碧眼を見開き、天馬のことを見つめる。
だが再びキュッと口を縛り、無表情を取り戻した。

「あります。そのために私は『無』の空間にいるのですから」
「教えてください!どうすればいいんですか!?」

Ⅰは一瞬黙りこむ。
まるでそれは言えないとでもいうように瞳をそらした。

「……危険です」
「だとしても、俺やりますから!」

天馬はⅠの肩を掴んだ。

「お願いします……!」

そして頭を下げ、震える声で頼み込む。
Ⅰはその決意に押されたように、無言でうなずいた。

「パラレルワールドに飛ぶのです」
「パラレルワールド?」
「ええ。いくつもあるパラレルワールドの中には、登場人物は同じでも現実にリンクしていないものが希に存在します」

Ⅰはそう言うと天馬から離れ、自分の足元に手をかざした。

途端に柔らかな青い光がそこから溢れ、一冊の本が無の空間の床から飛び出した。
Ⅰはその本が落ちないようにうまくキャッチし、天馬のほうを振り返る。

「い、今のは……?」
「これは私の能力ですけど」

Ⅰは驚きを隠せない天馬に、眉を寄せながら答えた。
分厚い革の表紙を開き、茶色くなったページをすごいスピードでめくる。

そしてニッと口角をあげて笑った。

「見つけましたよ。あなたが歩める未来を」