二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【イナgo】少年たちのRhapsody ( No.8 )
- 日時: 2012/09/08 23:25
- 名前: 葉月 (ID: eldbtQ7Y)
【第3話・神童】
「……い」
誰かが何かを言った。
天馬はそれを避けるように寝返りを打つ。
呼びかけた相手は困ったように頭をかき、自分の足元に転がっている天馬を眺めた。
木々の枝で休んでいる小鳥が、同じように天馬を見つめる。
森の中だからだろうか。
夏だというのに、涼しい風が少年の灰色のウェーブがかった髪を揺らす。
少年は少しばかり空に目を向け、再び天馬にその赤い瞳をむけた。
そして呆れたように口を開き、天馬の腕をつかむ。
「おい!大丈夫か!?」
「うっ!うわっ!」
突然の大声に、天馬は思わず勢いで上半身を起こした。
キョトンとしたその表情に、少年は苦笑を浮かべる。
「お前どこの人間だ?見覚えのない顔だけ」
「神童先輩!」
天馬は少年の言葉をさえぎって、大声で叫んだ。
青みがかった大きな瞳を驚愕に揺らし、まじまじと彼を見つめる。
天馬に神童と呼ばれた少年は、驚きつつ怪訝そうに眉を寄せた。
「先輩?えっていうか……なんで俺の名を?」
「……え?そんなの当たり前じゃないで……」
天馬は不意に言葉を飲み込んだ。
いや、飲み込みざるを得なかった。
おかしいのだ。神童の服装が。
慌てていたため今気が付いたのだが、神童の来ている服はいつものサッカーユニフォームでも、学ランでも私服でもない。
限りなく黒に近い緑のジャケットのようなものをはおり、中の服は真っ黒なTシャツ生地。
ズボンはジャケットと同じ色で、足元はブーツだ。
首には薄い茶色の襟巻をしており、腰には鞘に込められた剣がぶら下がっている。
こうして着てみれば似合うのだが、普段の神童からは想像できない服装だ。
「なんだ?」
突然黙り込んだ天馬に、神童はそう問いかける。
天馬は神童を見上げた。
灰色の髪も赤みがかった瞳も、見れば見るほど神童そのもの。
だが同じように、見れば見るほど違和感に襲われる。
天馬は意を決したように神童そっくりな少年に尋ねた。
「あの……俺のことわかりますか?」
神童は「え……?」と声を漏らし、再び口を開く。
「さっき言っただろ。お前どこの人間だ?って」
「そ、そうでしたね……」
天馬は嘘くさい笑みを浮かべ、顔の前で両手を振った。
(I〜……どうなってるのさ……)
ちなみに頭の中は、よくわからない現状でいっぱいである。
神童は天馬のことを忘れているというより、もともと知らなかったように話す。
彼の服装も疑問が残るが、現在いる場所が森だというのもおかしい。
ここがIの言っていた、天馬の歩めるパラレルワールドなのだろうか。
その時、遠くでだがバタバタとうるさい人々の足音が聞こえてきた。
武装でもしているのだろうか。ガシャガシャという音も聞こえる。
途端に神童が顔色を変えた。
額に汗がにじんでいるのがわかる。
天馬はそんな彼を見て、思わず「神童先輩?」と聞いた。
しかし、神童はそれに反応を示さない。
真剣なまなざしで、自分の来た道を見つめている。
そして天馬のほうは見ずに、小さく口を開いた。
「……お前名前は?」
「えっ……あっそっか、松風天馬です」
天馬は少し戸惑いながらも、笑顔を神童にみせる。
神童はそんな天馬をチラリとみると、彼の手首を勢いよく引っ張った。
「えっ!?神童先輩!?」
「松風っ!黙ってついてこい!」
神童は覇気のこもった声で言うと、天馬を連れて走り出した。
森を抜けるその道へと。