二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 記憶喪失少女[inzm] ( No.5 )
- 日時: 2013/01/14 19:26
- 名前: 音愛羽 (ID: Pc9/eeea)
(((ナンバー4.転校生として)))
キーンコーンカーンコーン……
校内にチャイムが響き渡ると、先ほどまでざわめいていた廊下がしんと静まる。
まるで魔法のように。
私は先生の後をトコトコと歩いてついていく。
長い廊下は陰になっているからか少しひんやりとしていて、春のぬくもりは感じられない。
先生も私も無言で教室の前まで移動した。
今日の朝、夏美に連れられてここ、雷門中へと登校した。
もちろん徒歩……ではなく車だったが。
夏美と同じように「お嬢様」付きで名前を呼ばれるのはまだ慣れないが、昨日一日で夏美とは打ち解け大の仲良しに。
意外と優しくて、面白い子なのだと思った。
見た目はキツそう……というか表面上、本当に冷たい態度をとる時もあるが、まぁ話してみると天然交じりのかわいい女の子だった。
夏美につきっきりのじいやさんもおっとりした気のいい人で、私にもとても優しい。
そんなわけで夏美と一緒に理事長室へいくと、彼女の父に出迎えられた。
彼もまた気のいい人で、快く私を受け入れてくれた。
本当に感謝で心がいっぱいだ。
しばらくすると、担任になる男の先生が私を迎えにきた。
厳しそうに見えるけど、本当は優しい人なのだよ。と、理事長は私に耳打ちした。
そして今に至る。
先生はまず自分一人で教室内へ入り、朝の挨拶などを済ませる。
生徒たちは大きな声で「おはようございますっ」といった。
委員長と副委員長が前に出て司会を始める。朝学活の内容をテンポよく済ませて行く。
そして、一通り終わると先生からの話です、と言って自席へと戻って行った。
そこでやっと先生が前にでて、今日の変更事などを説明。
そして、転校生の話が出た。
私の出番か……。そう思った矢先、先生に名前を呼ばれる。
ガラリ、と音を立ててドアをスライドさせると生徒たちの視線が痛いほどに突き刺さった。
一つ深呼吸すると、先生を見る。
先生もこちらを見てうなづいた。自己紹介しろ、ということだろう。
ふと気づいた。
私は……とてつもなく緊張している。気づかなかったが、足は震えているし、手には尋常じゃないほど汗がにじんでいる。
自己紹介しようと口を開こうとするが一向に開かない。
……うん、どうしようか。
ひとまず落ち着け、私。大丈夫だ……たぶん。いや絶対。
もう一度ゆっくりと、深く深呼吸すると、重い口をこじ開けた。
「わ……たし……は、天野……海桜……です。仲良くしていただければ……うれしいです」
初めはたどたどしかったが、後半は早口でそう言った。
きっと表情は硬く、ニコリともしていないだろう。
ぱちぱちと一人が拍手すると、瞬く間にみんなへ伝わり、最後には大きな温かい拍手に教室全体が包まれていた。
ふっと表情が緩んだのが自分でもわかる。
このクラスの人たちは、やさしいのだな、安心していいんだと心の底から思った。
先生に指定された席へ着くと、ちょうどよくチャイムが鳴った。
「次の授業は数学。教科書はある?」
斜め前の女の子の声にうなづくと、かわいい笑顔で自己紹介された。
「私ね、音無春奈って言うの。よろしくね」
藍色のウェーブがかった肩までの短い髪はサラサラで、カチューシャのように頭に乗っているのは赤いメガネ。
髪と同じ色の目は真ん丸で愛らしい。彼女の笑顔は周りを明るく、そして和ませるような力があるように感じた。
背は153センチほどで、私よりも高い。
というか私が低いだけか。春奈、と名乗ったその子は私のことをとても気に入ったようで、とてもフレンドリーに話してくれた。
彼女と打ち解けあうのにさほど時間がかからなかったのは言うまでもない。