二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [イナイレ]-プリンスのDNA ( No.130 )
日時: 2012/11/03 14:51
名前: 優騎那 (ID: hoeZ6M68)

第三十二話 『戦は嫌だ』

「恋夏様!お方様!」

真っ白の中でオリビアは自分の前世である女性を捜す。
辺りを見回してもどこにも姿は見あたらない。

———オリビアか。待っておったぞ

赤の小桂を着た女性が背後からすっと現れた。
彼女は恋夏。
オリビアの前世で全く同じ顔をした武家の女性だ。

———今宵は友斬りの名の由来と、わたくしの生涯のことを少し話そう

「………」

———わたくしにはその方と同じく幼少の頃より付き合いのある者達が3人おったのじゃ。

一人は新谷樽人—しんや たるひと—様。
後にわたくしの夫となった殿方じゃ。
二人目は望月亀松—もちづき かめまつ—様。
樽人様の家臣でキリシタン大名であった。
三人目は愛狐—あいこ—様。
亀松様のご正室。
わたくしにとっては最も近しい姫君じゃ


新谷殿…望月殿…愛狐様…
その三人の武家の人間の名を頭の中で響かせ、舌の上で反芻した。

———その方を混乱させぬよう、いらぬ話は省こう

我らが生きたのは戦乱の世。
主君が家臣を裏切ることなど当たり前の世じゃ。
また逆も然り。
亀松様は戦以外に能がない不器用な樽人様を見限った。
樽人様も自身に忠誠を誓ったはずの亀松様が反旗を翻したことに癇癪を起こし、二方は戦をすることになったのじゃ。
双方一人の兵もいなくなってしもうた時、樽人様と亀松様は互いの腹に刀を突き刺して逝ってしまわれた…

「お方様は…どうなされたのですか……?」

———樽人様亡き後、わたくしは実家に戻る手筈であった。

しかしながら、わたくしは生き長らえることをよしとせなんだ。
樽人様が果てた"戦"というものを思う様憎んだ。
それは愛狐様も同じであったようでな、愛狐様は『どうせ死ぬ命なら、恋夏様に斬られたい』と言うた。
わたくしは愛狐様の願いを聞き届け、あの方の心の臓に"友斬り"を刺した。
愛狐様を先に殺し、わたくしも自らの喉元を切り裂いた。
…"友斬り"でな
もう、戦は嫌だったのじゃ……

つらい痛い苦しい話をしているのに、恋夏は表情を崩さない。
泣くことに疲れてしまったのだろうかと、胸の奥底でオリビアは思う。

友の絆がわかれていく悲しみ、大事な人を亡くすショックは十分すぎるほど知っている。
何かを嫌いになり、恨むことも。
浜崎が死んで、大切な人との日常がなくなることがいかに空虚かを知った。
そして、彼女の命を奪ったと言ってもいい大好きだったサッカーを嫌いになった。
絆が裂けていく悲しみはあの日の蜷川と不動の背中がオリビアのすっかすかな頭に叩き込んだ。

それ故、恋夏の心根の痛みが身を切られるよりわかっている。
自分が恋夏なら、同じことをしていただろうから。