二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- // リナリアと幻想を抱いて眠る : 庭球 . ( No.3 )
- 日時: 2012/09/01 20:04
- 名前: 酸欠 ◆YitN/20R3k (ID: K75.VLwZ)
あの頃のわたし達は多分凄く弱くて小さくて、だから平気で傷付け合ったんだろう。
// リナリアと幻想を抱いて眠る :03
——好きです、付き合って下さい!
まるでテンプレートみたいな告白に足が止まる。わたしに言われているわけじゃないのに、決してそうじゃないのに、どきりどきりと心臓が高鳴った。
嗚呼、これなら大人しく帰るべきだった。屋上でごろごろとしている場合じゃなかった。聞こえてきた足音に咄嗟に身を隠したけれど、どうもわたしは居てはいけないところに居るようだ。
それでも人間、好奇心というものは抑えられない。ちらりと物陰から顔の上部だけを覗かせて、様子をうかがう。赤い顔をしている茶髪の女子生徒の前で、困ったような顔をしている白石が見えた。
やっぱりモテモテやんなー、と考える頭と裏腹にどきりどきりと心臓はいっそう煩くなる。わたしは告白現場に遭遇したのは初めてだから、興奮しているのかもしれない。何でわたしが、という話なのだが。
「すまんけど……今はテニスとかに集中したいんや。やから君の気持ちは受け取れへんねん。すまんな」
「っ、あ、ありがとう、話、聞いてくれて、!」
困ったように眉を下げる彼は女子生徒の肩を軽く叩く。女子生徒はかあ、と顔を真っ赤にして、うるうると瞳に涙を溜めながら、ぺこりと頭を下げた。うわ、かわいい。
白石は驚いたように目を瞠り、勘忍な、と言ってから駆けていく女子生徒の背を静かに見つめていた。わたしはどうしようか迷ったものの、そのまま隠れていることにした。
白石だって部活あるんだし、その内去っていくだろう。
しかしその予想に反して、白石はがしゃん、とフェンスに凭れ掛かった。その表情は憂いを帯び、何処か申し訳なさそうで、何処か寂しそうな顔だった。どきり。告白シーンは終わったはずなのに心臓が、うるさい。
「! ……白尾さん、やったっけ」
「え、あ、」
慌てて彼から視線をそらすと、何故か彼はこっちを向いて、驚いたような顔をした。
それからバツの悪そうな顔になれば、包帯を巻いた手でぽりぽりと頬を掻きながら、悪いもん見せたやろ、とか細い声で呟く。悪いものと言えば悪いものかもしれないが、わたしの好奇心がまず問題なのだから仕方ないわけで。
あー大丈夫、と曖昧に笑えば彼はそか、と頷くだけで何も言おうとはしなかった。それっきり、どちらも喋ることはしない。けどわたしは沈黙は慣れている。
くしゃりと前髪を掻き上げる白石は酷く寂しそうで、胸が締め付けられた。恋——にも似たものかもしれない。けど、多分これは同情だ。
「白石、好きな女の子居るんでしょ」
「っ、」
ビンゴ。
彼とは今日会ったばかり。けれど、彼の考えていること、というより、彼がいまどんな状態か、がわたしにはすぐに分かった。だってわたしの友人に似てるんだもの。
白石はびくりと肩を揺らし、困ったように、わらった。凄いなあ、自分。感心しているような声に、くすくす笑う。
「似てるんだ、わたしの友人に。……東京に居たときの、ね?」
「へえ、誰なん、それ」
「今は某常勝校の部長さん、かな」
幼馴染と言っても過言ではないが、でも、それでも、彼とわたしの関係は友人だ。弦のつくあの人だってそう。時折くる慣れてなさそうなメールには噴き出してしまう。風紀委員なんだっけ、怖そうだな。
そんなことを考えながら言えば、白石は思い辺りがあるのか、もしかして、と言うけれど、先は言わせない。だめ、と言って人差し指を唇にくっつけて笑えば、そか、とまた短い返事が返ってきた。
彼は益々困ったような顔をして、フェンスの音をかしゃかしゃと立てた。沈黙を拒否しているような、そんな感じ。
「わたしも居るなあ、……好きなひと」
「! おんなじ、やな」
「そうだね。……うん、そうだ」
彼のその行動に笑って、自ら話題を振る。彼は小さく笑って、おんなじやな、と少しだけ寂しそうに呟いた。
それを見た瞬間、わたしは理解した。彼の好きなひとはきっともう、違う男の人がいるんだって。先ほどから彼が落ち着かない様子だったのはこの所為なのかもしれない。わたしは、おんなじ立場にいたから、よく分かるきがした。
「大丈夫、きっと振り向いてくれる」
半ば自分に言い聞かせるように言えば、彼はそやな、と笑って、改めて宜しゅう白尾さん、と綺麗に笑った。
//
知らなかった、知らなかったの。彼の好きなひとが、誰かなんて。彼もまた、知らなかった。わたしの好きなひとが、あの人なんだって。ねえ、わたしたち、もう此処から間違えてたんだよ、きっと。後悔してもきっともうしきれないの。ごめんね、
( リナリアと幻想を抱いて眠る:03 ) // 120901.