二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

   // 其の記憶は忘却の彼方に : 黒子 . ( No.4 )
日時: 2012/09/02 18:32
名前:   酸欠   ◆YitN/20R3k (ID: K75.VLwZ)




  黒と白は、似て非なるものだって言っただろう、と嘲笑う彼の声を思い出して、わたしは酷く狼狽した。




   //  其の記憶は忘却の彼方に




 甘ったるいハート型のチョコレイトを口に含み、わたしは屋上から空を見上げた。
 ひどく気分が悪い。これもきっと彼の所為だ。
 行き場のない苛立ちをぶつけるようにチョコレイトを口内で噛み砕く。真っ二つに割れたそれを更に砕いて飲み込み、わたしは携帯をぼんやりと眺めた。


「テツヤくん」


 わたしの、大事なひと。
 さつきちゃんの、想ってるひと。
 無表情だけど、何処か優しい瞳は隣に居るわたしを拒んでいない証拠だ。この写真を待ち受けにするのは、たぶん、すごく駄目なことだと思う。けれど黒と白は似て非なるものだという彼の言葉を思い出せば、それ以外のものを待ち受けにするのは何だかすごく嫌になった。
 わたしとテツヤくんは、ずっと隣に居た。わたしもテツヤくんも何色に染まらない。唯一お互いの色にだけ、染まってしまう。依存関係、といえば話がはやい。
 其れは多分おかしいことなんだけれど、お互いに一緒にいなければ気が済まない。お互いは"同じもの"なんだと、わたしたちは認識しているから。


「また此処にいたんだ、白尾」
「……赤司、」


 嘲笑を含んだ声に、わたしは現実に引き戻される。
 携帯をしまおうとして慌てるけれど、声の主——赤司は素早くわたしの元に近付いて、もたもたとしているわたしの手から携帯を取り上げた。その目が待ち受けに向けられると、彼は可笑しそうにわらった。
 まだ此れなんだ。嘲るような声にわたしは狼狽するしかなかった。彼の言葉にはいちいち狼狽えるしかなくなる。彼の前で、わたしは余裕というものをなくしてしまうのだ。
 何色にも染まらない筈なのに、彼の前では、その赤色に染め上げられそうで、恐怖しか感じなくなる。


「お前の行動は全て読めるようで楽しいよ」
「……赤司の行動は全然読めない。何で此処に来たの」
「そんな嫌悪感を露にして、オレに何を求めてるんだ? この間の発言でも撤回してほしいとでも言うのか? 残念ながら其れは出来ない相談だ」


 だって君達は同じじゃないだろう? 
 そう言ってくつりくつりと笑みをこぼす赤司に嫌悪感と恐怖感が混ざり合う、負の感情が生まれた。彼はわたしの携帯を傍らに置いて、わたしの前髪を掴んだ。
 白くて細い指が、わたしの目の前で、わたしの前髪を掴み上げている。痛い、という感覚はない。左右の色が違う瞳が真っ直ぐにわたしを、殺気と狂気を孕みながら射殺すように見つめている。
 背筋を冷たい汗が伝う。ひ、と情けない悲鳴が零れた。


「お前は本当、一々オレを楽しませてくれるな。オレを苛立たせる天才のお前を称賛してやりたいくらいだ」
「、かえ、って」
「オレの言うとおりになれば楽なものを、お前は何でそう拒むんだか。……そんなに黒子が良いのか、お前は。黒子との関係がお前自身を壊すということを知りながら、お前は黒子の傍に居るのか? 下手をすれば桃井との関係も壊すことになりかねないのに」
「うるさい、!」


 ぐ、と前髪を掴まれたままの至近距離。彼の瞳はもう、同じ色しかしていない。先ほどのオッドアイはまるで幻覚だったようで、それに、優しい瞳だけがわたしを映している。
 けれどわたしには分かる。その瞳が、狂気を孕んでいることを。
 抑揚のない声で言葉を並べる彼に思わず声を上げれば、彼は更に苛立ちを覚えたのか、前髪を掴んでいた手ではない方の手をわたしの首に添えて、ぎりぎり、と爪を食い込ませた。
 息が詰まる、一瞬。


「オレはお前が大嫌いだよ、白尾紫苑」


 前髪を放し、首から手を退け、わたしの隣に有ったチョコレイトを数個掴んで彼はそう吐き捨てた。ひどく冷たい声に、わたしは涙が込み上げてきた。
 わたしは、どんな彼でも、仲間だと思ってる。大好きだと、そう思ってるのに。







 ( 其の記憶は忘却の彼方に:01 ) // 120902.