二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

   // 世界が崩れ落ちる三分前 : 黒子 ( No.5 )
日時: 2012/09/03 19:33
名前:   酸欠   ◆YitN/20R3k (ID: K75.VLwZ)






   //  世界が崩れ落ちる三分前




 今日は朝から夜だった。
 何処かの子供が言葉遊びらしきそれを口遊みながら、友人が待っているであろう公園へ駆けていく様子と時計を交互に見詰めて、小さく溜息を吐いた。
 あの女だろうから早く来るだろうなんて思わなければよかった。まさか遅刻なんて、ツイていない。
 苛立ちを増す頭と反して早く来いと期待している自分の感情に小さく舌打ちをして、オレは腰を掛けていたベンチから立ち上がった。
 公園の近くにある時計台の下で、12時に。そんな約束を交わしたのはつい先程のことだ。
 仮にも恋人である女の笑顔が過れば寧ろ今は苛立ちを倍増させる以外の何物でもない。最初の頃こそは早く来たものだが、今回は何故か十五分も過ぎている。
 あいつが何故かいつも持ち歩いている四角形のチョコレートを口に含み、がり、と噛み砕いた。あま。


「……ごめ、っ、事故っ、た、!」


 一瞬聞こえた爆音。その後、不意に鳴り響く着信音。ディスプレイには"紫苑"の文字。
 電話に出て、さっさと来い、と、そう言おうとした矢先、彼女は雑音の邪魔する場所で、息も絶え絶えにそう言ってきたのだ。
 何故か他人事のようにしか思えず、そうか、という冷静な声が出てしまう。けれど内心は酷く焦っていて、オレは取り敢えず状況を確認することにした。
 彼女の声は微かに震え、どうやら彼女は事故に遭ったのではなく、事故を見てしまった様子だった。


「こ、えん、の、近く、の、建設予、定ビルっのした、で、」
「公園近くの建設予定ビル——……今から向かう」
「だ、駄目っ、! い、ま、てっちゅ、落ちて、」


 公園近くの建設予定ビルと言えば、公園から歩いて百メートルほどのところにある。大きな交差点を渡り、少し進めばすぐに見える場所だ。
 鉄柱が落ちてきた、という彼女は酷く同様しており、時折嗚咽のようなものも混じっている。落ち着けと冷静なオレに反して心はぐるぐると回って、気持ちが悪い。
 先程聞こえた爆発音のようなものはどうやらそれが落ちてきた音らしく、既にパトカーやら救急車やらのサイレンが聞こえている。
 兎に角行く、と言えば彼女は鋭く叫んだ。


「駄目っ! 征十郎、死んじゃ、」


 ぷつり。
 何物かが邪魔するように彼女の携帯の電源を切る。
 誰だ、と困惑する頭はもう冷静になんて居られない。オレは彼女の身を案じて、公園から踏み出す。直後、見えるバスケットボールと、飛び出す子供。
 ——今日は本当にツイていない。おは朝の占いの運勢でも悪かったんだろうか。こんなことなら真太郎に頼むべきだったな。
 そう考える頭は何故か落ち着いていて、オレは赤信号の交差点を一歩踏み出した。子供の背を押して、ボールを弾いた瞬間——……




   //




 目を覚ました場所は、何時もと変わらない病室だった。
 征十郎、と情けない声で彼を呼ぶ。けれど、反応が返ってくるはずもないのだ。
 彼を求める身体が、はやくはやくと叫んでいる。きっとわたしにしか彼しか守れない。物語の結末を知っているのはわたしだけだもの。


「ごめんね、」


 どうやって此処から抜け出せばいいのか、わたしは知っている。ねえ征十郎、貴方が望むならわたしは実現してあげる。




  世界を、壊せばいい、それだけ。 // →投げ入れられた毒薬に酸素を求める。







 ( 世界が崩れ落ちる三分前 ) // 120903. : 陽炎日々パロ、