二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【REBORN】 皓々と照る月 【《仮復帰》標的40更新】 ( No.123 )
日時: 2013/01/10 18:59
名前: 苗字(元なゆ汰 ◆UpTya9wNVc (ID: 6xS.mLQu)
参照: ※標的39と40を消去させていただきました。

 昔の話である。当時まだ若かったお父さんは、海外出張の多い会社に就いていた。その会社はまあまあ大きいところで、ヨーロッパを中心に活動していたという。そのため、お父さんもヨーロッパへ行くことが多く、仕事のついでに家族で旅行をしたことがある。昔——とはいっても、私が小学六年生の頃、長期の仕事が主だったお父さんには珍しく、二泊三日という比較的短い仕事が言い渡された。行き先はイタリア。その時私は社会科の授業で、興味のある国を調べるという課題の途中だったのだが、全く進んではいなかった。そのため、丁度良いとイタリアについていくことにした。思えば、それが始まりだったように思う。

 今もそうなのだが、当時もさしてお洒落というものに興味がなかった私は、小学校の制服を着ていた。そして、茶色のポシェットの中には、旅行用にと持たせてもらった子供携帯と、簡易的な地図、私でもわかるくらい簡単に記されたイタリア語の辞典が入っている。

 成程。イタリアの気候も、さして日本と変わらないな。そう思いつつ、一面に並ぶ洋風の建物を見渡した。セーラー服の真っ赤なリボンが風に揺られて、短い黒色の髪が私の視界を遮る。今は春なわけだが、その気候は並盛と似ている気がした。確かパソコンには、“ちちゅうかいせいきこう”やら“へんせいふう”やら、難しい単語が書かれていたような気がするが、小学校六年生ではそんなことはまだ習っていないので、わかるわけもなかった。きっと、中学校あたりで習うのだろう。

 さて、飛行機に揺られて十二、三時間。飛行機から降り、空港を出た先には、日本で暮らす私にとってはあまりにも現実味のない風景が待っていた。どこを見ても、“和”の要素など微塵もない、きれいな洋風の建物が立ち並び、道行く人は、皆外国人(当たり前なのだが)。それがイタリアの人々にとっては当たり前なのかもしれないが、私にとってはとても珍しい。一つ一つの建物が、小さい頃飽きるほど開いた絵本の中にあるお城のようで、もう小学校の卒業が間近である私でさえ興奮した。


「よし、ユウ。お父さんは、仕事に行くからね。といっても、お昼までだ。その間は、この辺で待っていてくれ。あとでお父さんの部下が来るから、安心しなさい」


 バーゲンで買った腕時計を気にしながら、お父さんは忙しなく会社へと向かっていった。その背中に、べーっと舌を出す。過保護すぎやしないか。たかが社会科見学という名の旅行中の娘のために、部下をつけるだなんて!せっかくイタリアに来たのに、見張られるのはごめんだった。勝手だとは知りながらも、私は石畳の地面を踏みしめて、地図を片手に足を踏み出した。