二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【リメイク】 皓々と照る月 【REBORN】 ( No.20 )
日時: 2012/09/08 12:13
名前: 苗字(元なゆ汰 ◆UpTya9wNVc (ID: mxpCGH6q)

 知らなくていいことが、そこにはあった。けれど、確かに私はそれらを知ってしまったし、関わってしまったのだ。

 
 次の日。朝、何時もどおりの時間に学校へ着いた。沢田もごっきゅんも山本も、皆白い包帯を巻いていて、やはり応接室に行かなくてよかったなと思った。黒い獣。それが、雲雀恭弥なのだから。おずおずと挨拶をしてきた沢田に、そっけなく返事だけして、私は席につく。後ろでごっきゅんが「10代目にそんな態度…!!」とか何とか言って喚いていたが、私の態度よりごっきゅんの方が沢田に迷惑をかけていると何故わからないのだろうか。もしかして、アホ?そう思いながらも、まだ喚いているごっきゅんを見据えた。「な…なんだよ」と、戸惑いがちに言うごっきゅんに向かって、口を開く。


「五月蝿い、ごっきゅん」
「ご……ッ!? てめっ、またそんなアホな渾名でオレを…!」
「何、嫌なの? じゃあ、獄寺。五月蝿い死ね」
「呼び方変わった途端辛辣!?」

 
 沢田のツッコミも入ったところで、私は顔逸らして何も書かれていない黒板を見つめた。ごっきゅんて渾名可愛いと思うのだが。けれどもう面倒だし獄寺でいいや。半ば投げやり気味に考えながら、暇な私は後ろでまた喚き始めた獄寺の声を聞く。


「っ何なんだよてめーはっ…! リボーンさんの言うことも聞かねえでフラフラしてよ! お前がマフィアにさっさとならねーせいで10代目がイロイロ苦労してんだぞ! 10代目の気持ちも考えろ!」


 ——、は?思わず素っ頓狂な声をあげて目を丸くしてしまった私の顔は間抜けだろう。しかし、そんなことどうでもいい。ブスといわれたことは一億歩譲っていいとして、私が沢田の気持ちを考えろだと? 怒りが一気に込み上げてくる。じゃあ、お前たちは? お前たちは、私の——


「ちょ、獄寺くん!」
「それはちょっと言いすぎじゃねえの獄寺?」


 獄寺を沢田と山本が宥める。獄寺もさすがにまずいと思ったのか、口をつぐんだ。けれど、もう遅い。私は怒りで頬が熱くなるのを感じて、唇を噛み締めた。噛み締めた唇から血が流れていくけれど、気にせず私は獄寺を睨みあげる。そのことに獄寺がムッとして私に何か言おうと口を開いた瞬間——、私は、それを遮るように叫んだ。


「じゃあ、アンタらは私の気持ちを考えたことがあるか!? 私が嫌がってもマフィアになれと無理強いするお前らは……、私の気持ちを考えたことがあるのか…!? 人が苦労してつくりあげた平凡な生活をいとも簡単に壊したアンタらが! 考えたことがあるのかって聞いてるんだ…! 私の平凡を返せ……“私”を返せぇえぇっ!」


 叫んだ熱も冷めぬまま、私は息も絶え絶えに辺りを見回した。沢田も獄寺も山本も、京子ちゃんも花ちゃんも、皆驚いた顔して私を見てる。覚醒してきた脳内で、ああやっちゃったなと他人事のように思った。


「……東城さん」
「…………ねえ、沢田。」


 泣きそうな顔の沢田に、私は引きつった笑みをつくる。その作り笑いを目の当たりにした沢田は、歯を噛み締めたまま俯いた。そんな沢田を宥めるように私は比較的やわらかい声を出す。また口を開いた私の言葉に耳を傾けようとしている彼らを見渡して、私は言った。


「私は、平凡を望んじゃいけないの?」


 ずるい、言葉だったと思う。沢田たちは一瞬傷ついたような顔をして、また俯いた。ずるい、女だよ。私は。


 本当に、ずるい女。