二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【REBORN】 皓々と照る月 【リメ】 ( No.23 )
- 日時: 2012/09/10 20:50
- 名前: 苗字(元なゆ汰 ◆UpTya9wNVc (ID: mxpCGH6q)
昔むかあしの物語。平凡を何よりも愛し何よりも求めたおばあちゃんは、マフィアに殺されました。非凡と平凡の中途半端な狭間にいたせいで、彼女はマフィアの抗争に巻き込まれたのです。そのマフィアは、おじいちゃんの所属する組織でした。おじいちゃんは深く悲しみました。そして、堅く誓いました。東城家は、今日をもって平凡な道を歩むと。おじいちゃんは、自らの子供とその嫁である、ユウのお父さんとお母さんに言い聞かせました。「私の妻は非凡に関わったから死んだのさあ。どうか、あんたらは死なないでおくれよ」と。悲しい声と表情でした。その日からお父さんとお母さんは、取り付かれたように、娘のユウにまでも何度も何度も言い聞かせるようになりました。それは、一種のマインドコントロールでした。ユウも何度も聞かされたせいか、マインドコントロールにかかり、平凡を望むようになりました。それが歪んだ感情だとしても、ユウは貪欲に平凡へと喰らいつくのです。おじいちゃんとおばあちゃんの無念のために。お父さんとお母さんが悲しまないように。ユウは、ユウはユウはユウは、私は私はわたしはワタシはわ、たし、は。
***
おじいちゃんから渡された資料には、こう書かれていた。
【イタリアにてあるマフィア間の抗争により、女性が一人、流れ弾を受けて死亡。東城と記されたノートを持ち歩いていたことから、名前は東城と見られる。その女性は、一般人ともマフィアとも取れず、捜査は未だ進展を見せていない。なお、女性を殺した銃の持ち主も、マフィアであり、東城の性を名乗っていることから、夫婦と見られている。】
つまり、おばあちゃんを不可抗力とはいえ殺したのは、おじいちゃんで、おじいちゃんは、マフィアで。混乱してぐちゃぐちゃな脳内が、私を可笑しくさせる。何それ。意味わからない。
「真実は見つかったかい? ……おや。混乱しているようだねえ。さあさ、どうするさね。ユウのおばあちゃんを殺した私を、ユウがもっとも憎む非凡の中心にいた私を、責めるかい恨むかい? それとも殺す?」
ひょっこりと顔を覗かせたおじいちゃんが、笑いながら私に問いかけた。けれど、目は笑っていなかった。おじいちゃんがこの資料を私に渡したはずなのに、その目には知られたくなかったという気持ちが、ありありと浮かんでいる。私は、どうすればいいんだろう。泣き喚けばいい?怒鳴り散らせばいい?それとも、笑って見過ごせばいい?きっと、私にはどれも出来ない。だから、私は混乱する気持ちを呑み込んで、いつもの表情でおじいちゃんを見つめた。
「非凡は、嫌いだよ。けど、おじいちゃんは嫌いじゃない。」
「…………。」
「今までずっと一緒にいた人間をすぐに嫌えるほど、私は薄情じゃないよ。」
おじいちゃんの瞳に、薄い涙の膜が張られて、それはすぐに零れ落ちて言った。縋るようなおじいちゃんの表情に、私は苦笑を浮かべる。いつもの飄々とした態度はどこにいったのだ。そう思えるほど、情けなくって、けれど、とびっきり人間らしいそれだった。私の頭を撫でながら、くしゃりと顔を歪めて笑うおじいちゃんは、どこかお父さんに似ている。
ようやく涙を止めたおじいちゃんにもう用済みとなった資料を渡そうとすると、おじいちゃんはそれをやんわりと制して、昔のことをぽつりぽつりと話しはじめた。
「——私が彼女を殺してしまったあの日、私は混乱してしまって、東城の皆に言ったのさあ。平凡に生きてくれって……。彼女の二の舞にならないでくれって……。それが、間違いだったのかもしれないねえ。現にユウもユウの両親も、取り付かれたかのように平凡を愛し求めるようになってしまった。まるで、彼女のようにねえ。一種のマインドコントロールさね。……ユウ、お前は自分の好きなように生きるといい。平凡に囚われすぎてもいけないさあ。ユウ、すまないねえ。全ての始まりは、私のようさね。マインドコントロールはそう簡単には解けないかもしれないけれど、平凡ばかりに貪欲になってはいけないよ。」
おじいちゃんは、それだけ言って、私から離れた。そのまま踵を返すその後姿を見ながら、私は誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
「私は、お母さんの言ったように生きてるまでだよ。お母さんが、言ったんだ。泣きそうな顔で、いったんだ。ユウだけはいなくならないでって……。非凡に染まってしまったら死んでしまうの、だからユウは平凡に生きてって……。だから、私は平凡に生きる。マインドコントロール? そんなのクソ喰らえさ。」
マインドコントロールだろうが何だろうが、私の生きる道はそれだけだ。それが例え私の意思ではなくとも、必ず平凡を掴み取ってみせる。
——“お母さんが、言ったんだ。泣きそうな顔で、いったんだ。ユウだけはいなくならないでって……。非凡に染まってしまったら死んでしまうの、だからユウは平凡に生きてって……。”
それはきっと、歪んだ言葉。