二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【REBORN】 皓々と照る月 【リメ】 ( No.24 )
日時: 2012/09/12 17:33
名前: 苗字(元なゆ汰 ◆UpTya9wNVc (ID: gwrG8cb2)

 もうすぐ体育祭がある。リレー、パン食い競争借り物競争、創作ダンス、障害物競走、棒倒しなど、数々の種目に生徒たちが挑むかなり面倒くさい行事だ。ちなみに私は借り物競争。本当は簡単にリレーが良かったのだが、じゃんけんで負けて借り物競争になってしまった。この並盛中学校、借り物競争の借り物には、一つだけハズレがあるらしい。何故。そして去年のハズレは校長のヅラだったという。


「ユウちゃん! 一緒に帰らない?」
「ああ京子ちゃん。すまないねえ、今日日直でさぁ。」


 おちゃらけたように、笑いながら言う。日直なのは本当だ。だけど、やっぱりこの前沢田たちに怒鳴るのを京子ちゃんに見られてしまったのが、気まずくてしょうがない。京子ちゃんは気にしていない様子だったけど、他のクラスメイトたちは何だか余所余所しい気がする。やっぱあの時怒鳴ったのは間違いだったかねえ、と一人溜息を吐いて沢田をちらりと一瞥する。私が気になるというように、こちらをチラチラ見てくる沢田を視界の端っこに追いやりながら、また溜息を吐いた。


「溜息ばっか吐いてっと幸せ逃げてくぜー?」
「——山本。君さ、今日日直なんだけど。仕事やってよ」
「あ、ワリーワリー! 完ッ全に忘れてたぜ!」


 この前怒鳴ったというのに何の変わりもない山本に、日誌を渡す。爽やかかつにこやかに日誌を受け取った山本は、それをパラパラと読みながら私に喋りかけた。「で、何で溜息吐いてたんだ?」。意外と核心をついてくる山本に、苦笑を浮かべながら「別に」と返す。それ以上山本は何も言わなかった。


「そーいえばさ、数学のノート貸してくんね?」
「はあ? 何、ノートとってなかったわけ?」
「ワリー! 寝ちまってさ!」


 この通り!と言いながら手をパンッと合わせる山本に、内心呆れながらもノートを差し出した。「今日はもう帰るから、返すのは明日でいいよ」と言えば、ぱあっと輝く山本の笑顔。一瞬私までもが笑顔になりそうになったのを感じて、急いで無表情を繕う。山本はノートと日誌を片手に、自らの席——といっても、隣なのだが——に向かっていく。それを横目で見つつ、鞄の中に教科書を詰め込むと、教室を出ようと出口へ向かった。すると、背後から山本の声が聞こえて、足を止める。


「オレもツナたちも、気にしてねーよ」
「——……!」


 その声に、一瞬だけ何かが込み上げるのを感じた。それを必死で絶えて、私は教室を出た。何なんだ一体。


 いとも簡単に、私の気持ちを読み取ってしまった山本。後ろ手で教室のドアを閉めて、私は言った。


「……知ってるよ」


 沢田が獄寺が山本が、怒鳴ったことくらいでいちいち気にするような男じゃないなんて、とっくにわかってた。だって皆、優しいから。優しすぎるから。けれどこれを期に、皆から離れてしまおうと思ったのだ、私は。3人の優しさは、私には痛い。このまま3人の側にいれば、いつか私は私ではなくなる気がする。

 まっさらな沢田たちを見ているのが、つらい。3人と居れば、私が自ら非凡に染まってしまう日がくるような、そんな気がして、恐い。


「知ってたんだ、私は……。」


 その小さな声は、廊下に響いている。きっと、教室の中にいる山本にも聞こえているはずだろう。けれど、山本は何も言わない。ただ、ペンを走らせている気配がするだけ。山本は、聞かないフリをしてくれているのだ。


「ああ、もう優しすぎるんだよ……」


 そう、言うならばそれは。まるで深い深い海の底に沈んでいるような、そんな感覚だ。