二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【REBORN】 皓々と照る月 【傍観主生息中】 ( No.36 )
日時: 2012/09/15 13:10
名前: 苗字(元なゆ汰 ◆UpTya9wNVc (ID: gwrG8cb2)

※死ネタ流血ネタ入ります。


「五月の太陽が、丁度真上に来たときだった。渇いた銃声と、悲痛と無念が入り混じった叫び声が、マフィアの戦場に響いていた。そのとき、彼は銃に撃たれたんだ。じわじわと留まることを知らぬ血が、私の瞼の裏に焼きついているよ。彼は、死んだ。死んだのさ。あんなに良い奴だったのに、あっけなく散っていったのさ。え? 彼が何故殺されたかって? ああ、君は知らないんだったね。教えてあげようか。理由なんてないさ。だって、彼は。
・・・
流れ弾に当たって死んだのだから。流れ弾に意志も理由もないさ。そうだろう? けれど、マフィアがあの時抗争なんかしてなければって思う。ああゴメンね。哀しいのは私じゃなくて、父親を亡くした君の方だよね。彼を守れなくて、ごめん。」


 「そう、だったんですか。」やっとのことで搾り出した声は、酷く掠れていて、今やっと自分の喉がからからに渇いていることに気づいた。近くにあったお茶を一口だけ飲んで、目の前に座る男を見る。男は、殺されたお父さんの仕事仲間だった。丁度、お父さんと男はイタリアで出張に行っていて。あの時、イタリア出張に行く時、お父さんは「いってきます。必ず帰ってくるよ」って笑顔で言っていたのに。約束したのに、お父さんはその約束を破った。——否、約束は、果たされている。お父さんは“帰ってきた”のだ。ただ、真っ白く冷たい死体としてだが。けれど、そんな約束の果たし方など、望んでいなかった。涙は、出ない。


「私はやっとの思いでそこから逃げて、撃たれた彼をすぐに病院に連れて行ったが、皮肉にも心臓に一ミリもブレずに一発。……即死だったらしい。そして、帰ってきたわけだ。」
「…………。」


 私の隣にある棺桶には、お父さんが眠っていた。取れなかったらしい血が、所々こびりついている。皮肉なものだ。お父さんを殺したのがマフィアだなんて。先ほど心を許そうとした彼らも、マフィアになる人間だというのに。するりと、お父さんの頬を撫でた。侵蝕するように滲んでいく冷たさに、私はすぐに手を引っ込める。男は、今にも零れ落ちそうなほどの涙を目尻にためたまま、私を安心させようとなのか、小さく笑いかけた。


「ごめんね…」


 消え入りそうな声。彼はこんなに悲しんでいるというのに、私の目からは涙の一滴さえも出ない。ぎゅっと唇を噛むと、あわただしい足音と共に、乱暴な手つきでドアが開かれた。


「……っ! あ、ああああ!」


 半狂乱気味のその声は、お母さんのものだった。大粒の涙を目から散らして、お父さんに縋りつくようにおいおい泣いている。「死なないって言ったじゃありませんか…! 私とユウと、よぼよぼになるまで幸せな毎日を送るって、言ったじゃありませんか…!」私は、お母さんをぼんやりと見つめた。男は、お母さんを慰めようと手を伸ばすけれど、お母さんがその手を叩いて、また叫ぶ。


「いやです…っ! 私を触ることができるのは、後にも先にも、あの人だけと決めたの…っ!」


 お母さんとお父さんは愛してあっていた。娘の私も恥ずかしくなってしまうくらい、怠慢期なんて言葉彼らの辞書には無いんだろうなって思うくらい、それはもう愛し合っていた。


 お母さんが泣いていた。お父さんがいなくなった。私がまた心を閉ざすのに、それ以上の理由がいるだろうか。





 ***





「お願い、ユウちゃん…。貴方だけは、死なないで! お父さんは非凡に関わったから死んだのよ。私たちから幸せを奪ったのは非凡よ! お願いだから、ユウちゃんだけは、平凡に生きて……」


 それが呪いの言葉だということは、知っていた。縋るように泣き叫ぶお母さんを見下ろす。この言葉だ。この言葉を何度も聞かされたから、私はマインドコントロールにかかった。マインドコントロールにかかっていると自覚している以上、それは解けたも同然なのに、私は無理矢理マインドコントロールが解けないように自らに言い聞かせる。平凡であれ、と。お母さんが悲しむから、と。——否、もうすでにそれは、きっとマインドコントロールなどではないのだ。ただの、私のわがまま。私が私であるための、わがまま。


「お願いよ…お願い…」


 だから私は夢を見る。平凡な少女であるために。


「うん、わかったよ。」


 だから私は嘘を吐く。平凡を手に入れるために。私の中の選択肢には、もう沢田たちのことなどない。

 ごめん、皆。愚かでごめん。ごめんお母さん。平凡であるために、あえて私は非凡に染まる。けれどいつか、平凡な毎日に帰ってくるから。


 
 もう後戻りが出来ないことなど、知っていた。