二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【REBORN】 皓々と照る月 【標的26.5更新】 ( No.59 )
日時: 2012/10/01 17:36
名前: 苗字(元なゆ汰 ◆UpTya9wNVc (ID: gwrG8cb2)

 悲しそうに顔を歪めたおじいちゃんは、渋々ながらもコレクションしいた手裏剣やクナイなどの武器を差し出してくれた。もう、おじいちゃんとは暫く会えない。もしかしたら一生会えないかもしれない。それでもよかった。冷たいと思われるかもしれない。けれど、もう自分を止めることなど不可能に近かった。マフィアなんか、なくなってしまえ。今の私の顔は、酷く歪んでいることだろう。

 私は、東城家にさよならした。お母さんが、「待って」と泣いたけれど、私は平凡になるためにイタリアに行くのだ。お母さんのためなのに。おじいちゃんは、どこか感情の欠落したような表情で、「彼女とあんたは似ているさあ」と呟いた。彼女とはきっと、おばあちゃんのことだ。


「おっせー。王子待たせるとかマジ殺されたいわけ?」


 おじいちゃんとお母さんの手を振り切って、私はベルとの待ち合わせ場所まで走った。ベルは口元に弧を描きながら、私の頬にナイフをつきたてる。痛いと思ったけど、なぜか声には出なかった。なんの抵抗もしない私をつまらなそうに見据えて、ベルはより深くナイフを食い込ませて、下に引いた。血が、滴り落ちる。

 けれど——、今の私にはそんなことどうでもよかった。復讐に燃えているはずの脳内は、驚くほどに京子ちゃんたちのことばかり考えている。ベルは、つまらなさそうな顔から一変、楽しそうにまた頬にナイフを食い込ませた。血が、どんどん流れ出る。


「ししっ、白い肌に血が映えてんね」
「……ベル、痛いよ」


 ようやく、声が出た。ベルはどうやら狂っているらしかった。人の血を見て喜ぶとはなにごとだ。そうは思ったけど、また近づいてくるナイフを拒否せずに、目を瞑って見せた。瞼が視界に闇を落とす。ああそうだ、狂っているのは私のほうだ。沢田や京子ちゃんたちに満足にごめんも言えずに、私は自分のことばかり優先させて。どうか心の中だけでも謝らせてくれないか。ごめん、ごめん。二人とも、本当は大好きだった。

 先ほどの出来事のせいで、私はかなりダメージを負ってしまった。振り返るつもりはなかったのに、私はまた平凡を懐かしむ。こんなはずじゃなかった。そんな言い訳、価値もない。


「……行こうか、ベル」
「つまんねー。もうちょっと切らせろよ」
「切るのは標的だけにしてくれない?」


 瞼を開けたら、光がまた射し込む。簡単なことだ。目を瞑れば闇がやってくるし目を開ければ光が射し込む。大丈夫。私は間違ってなどいない。無になれ。無になって、私は復讐を成功させることだけを考えていればいい。そうすれば、きっとまた光が射し込む。目を瞑らずにいれば、いつかはきっと何かシアワセなことが起きる。


「復讐だけが道なり、か」
「は? 意味わかんねーこと言ってんじゃねーし」


 ナイフが、頬に食い込んだ。





 復讐は何を生むのだろう。達成感? 虚無感? それとも何も残らない?

 その疑問に、きっと答えはないのだ。