二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 薄桜鬼〜言ノ葉ノ姫君〜 ( No.18 )
日時: 2013/01/04 15:28
名前: 桜舞姫 (ID: O72/xQMk)

十話 過ぎ去りし悪意


全てが、停止していた。

井戸桶から落ちる水滴も、風に飛ばされた木の葉も、今まさに、新選組
の者達に降り注ぐ氷の飛礫も。動く者は、そこに立つ者たちだけ。

「…く……ぁっ……はぁっ…!!」

苦しそうに肩で息をしながらも、少女は、千乃はそこに立っていた。
淡青色の瞳を、爛々と輝かせて。

「……時術。…我らが姫は、健在のようですね。」
「どーすんの、燐華さん。」

全てが停止した中で、忍び装束の二人が軽く言葉を交わし合う。その光景が、今はひどく不気味だった。

「任務完了です。ここは引き上げ…っ!?」

背を向けて歩き出そうとした燐華の目が千鶴を捕らえ、驚きに変わる。
凍真もゆっくりと笑みを浮かべた。

「おいおい、凄い幸運だな…」
「これはこれは。まさかこんな所で……」

恐怖で固まってしまった千鶴の方に二人が一歩踏み出すと、すぐさま
土方が千鶴を庇った。もう一歩踏み出すと、幹部達が守りを固める。
しかし、そんな事は意に介さず、燐華は千鶴に声をかけた。

「何故こんな所に居られるのです?…東北の気高き女鬼よ。」
「っ!!?…わ、たし…?」
「そ。あんたのことだよ?」

じりじりと忍びよる黒い影。それはまさに、二人が千鶴の事をも狙っているということを、明確に表す行動だった。

「てめぇ等…何者だ…!!」
「明かす必要ない、土方歳三。」
「何っ!?」
「どうしても知りたいのなら、千乃様にお伺いしろ。私達は去る。……
 今日の所はな。…行きますよ凍真!」
「へいへい!」

人間とは思えない跳躍で二人は飛び上がり…闇に溶けるように去った。