二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

2 尖塔 ( No.13 )
日時: 2012/12/06 23:37
名前: tawata ◆Roz37FRKJ6 (ID: t7vTPcg3)


「……終わった」
 ふぅ、とウラノは息をつく。
 と、同時に歓声が起きた。
「わーっ!」
「やった!」
「凄ぇじゃん!」
「俺も操縦したい!」
 歓声を受けるウラノは少し照れくさそうに頭を掻く。
「外へ、出られる?」
「別に構わねぇぜ」
 ゆっくりと呟いたウラノに、コエムシが答える。
 次の瞬間、子供達の視界が切り替わる。
「これ……カイザーの上……?」
 子供達が立つ場所の真上には仮面がある。
 そこからして、それがカイザーの胸部である事は明らかだった。
「凄ぇ景色……」
 果てしなく広がる海。
 カイザーの後方にある旅館の方は見えないが、その海の景色だけで十分だといえた。
「……ん?」
 ふと、一人が声を上げる。
「どうしたの、カオ?」
「私……呼ばれた……?」
「え?」
 カオに視線が集中する。
「どういう事だ…? コエムシ」
 ウラノがコエムシに問いかける。
「何だお前、ずっと自分一人が操縦するとでも思ってたか?」
「という事は、敵が十五体だから、一人一回?」
「そういう事だ。ま、お疲れさん」
 そう言ってコエムシは全員を見渡す。
「さて、そろそろ下に転送するぜ。次の戦いになったら呼ぶからな」
 その言葉を最後に子供達が見ていた景色が切り替わる。
 旅館前の海岸へと転送された子供達は呆然と海を見ていた。
「カオが呼ばれたって事は、次のパイロットはカオって事かな?」
「そうじゃない? ウラノもそうだったし」
「そ、そうなの? 良っし、がんばっちゃうよ!」
 ガッツポーズをとって意欲をアピールするカオ。
 それに対する激励や、早く操縦したいという声が上がる中、異変に気付いたのはトヨだった。

「あれ……? ウラノは?」

 その言葉で全員が会話と止めた。
 この場に居るのは十五人、の筈だった。
 しかし、数えてみると十四人。
 先程パイロットとして戦いを繰り広げたウラノの姿が無かった。
「一体どこに——」
 カイザーの外に出たときには確かにウラノは居た。
 海岸に転送された後、姿が見えなくなった。
 そう考えた子供達は半ば反射的にカイザーを見上げる。
 夜の闇で黒い装甲の上部は見えない。
 しかし見えてしまった。
 カイザーから「何か」が落ちていくのを。
 その速度は速くも、遅くも感じられた。
 速く、というのはそれを見ただけの速度。
 遅く、というのはその事実を受け入れられない脳の判断なのかもしれない。
 海に立っているカイザーから落ちた「何か」は誰しもが考える通り、海に落ちた。
 小さな、小さな飛沫が上がる。
 音は子供達までは届かない。
 波の音と風の音以外に音は無く、それらも子供達にとっては蚊帳の外だった。
 子供達が気にしていたことは唯一つ。
 たった今カイザーから落ちた「何か」は一体何なのか。
 行き着く先は一つしかなかった。
 しかし、その真実を受け入れることは出来ない。
 出来るはずがない。
 子供達は静まり返った海を、唯呆然と眺めていた。