二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 3 命の秤 ( No.15 )
- 日時: 2012/12/19 23:00
- 名前: tawata ◆Roz37FRKJ6 (ID: t7vTPcg3)
*
周辺では最も大きい、市立の病院。
様々な病人が入院している。
ユウはそこの入院患者の一人だ。
突発性心筋症という難病を患っている。
心臓移植以外に治癒の道が無いといわれている。
移植をしたとしても、拒絶反応を抑える薬の副作用が一生付きまとう。
ユウにマッチする心臓を提供するという人は出てこない。
去年の秋にに余命一年と宣告された。
ユウに残された時間は大体二ヶ月。
その間にマッチする心臓を提供してくれる人が果たして現れるか。
万に一つ、いや、百万に一つくらいにしか確立なんてないだろう。
そう考えると、望みは薄く感じる。
そういえば、この病院には同じ病気を患ってる人がいたっけ。
何だったか……確か、ナギ君と言ったか。
その友人と思しき子たちと病院のロビーで話したことがある。
モジ君とツバサちゃんという、私達の一歳年下の中学一年生。
随分としっかりしてて、特にモジ君はとても勘が良い子だった。
同じ境遇なだけあって結構話が合い、別の学校ながら仲が良くなった。
この病院に入院している二人。
彼らを守らないといけない。
私はそのために戦って、そして……
うん、それは今は考えないことにしよう。
お見舞いの時に暗い事を考えてては駄目だ。
明るく、あくまで明るく居よう。
*
「サク」
「カオ、おはよ」
しばらくロビーで待っていたカオがサクを見るなり病室に向かう。
ユウの病室に向かう最中、廊下の向こうから二人の子供が歩いてきた。
「モジ君、ツバサちゃん。久しぶり」
「カオさん、サクさん。お久しぶりです」
同じ病気を患った友を見舞いに来た計四人は、挨拶程度で、他に特に話すことも無く別れる。
「ナギ君のドナー、まだ見つからないのかな?」
「見舞いに来てるって事はそうじゃないか? それに……」
ユウの病室の前に着く。
「ユウのドナーの心配の方が先だろ」
「……そう、だね」
病室内のベッドでは短髪の少女が本を読んでいた。
薬袋 唯(みない ゆい)。
ユイと呼ばれるその少女は二人に気付くと笑顔を向ける。
発病するまでは元気ハツラツとした性格だったものの、発病してからはすっかり塞ぎこんでしまった。
「おはよう……カオ、サク……」
痩せ細った身体は発病のショックによるものだ。
時間が残り少ないという事はユイ自身分かっている。
たった二ヶ月でドナーが見つかるなんて思ってすらいない。
残った時間を精一杯生きる気力も無く、ただ毎日を無気力に過ごしていた。
「具合、どう?」
「良く……見える……?」
薄らと笑みを浮かべながら答えるユイは既に諦めている。
死ぬのが当たり前だと思っている。
「……諦めちゃ駄目だよ」
「希望を持ち続けて死ぬなら、最初から諦めていたほうが良い」
きっぱりとしていた。
最高の友人である二人といえども、彼女の意思は変えられない。
「ユイ……」
「私なんかの為に心臓を提供してくれる人なんて、居るはずない……」
「そんな事っ……!」
ない、とは言い切れなかった。
移植をするという事はつまり、その人が死ぬという事で。
例えドナーが見つかっても、それを本気で喜ぶことは出来ない。
ユイが生きる代わりに誰かが死ぬ。
平等な命として、それは二人の最高の結果ではない。
ユイの病気が完治するというのが、最高の結果。
しかしそれは、叶わない。
どれだけ悲しもうとも、ユイが死ぬのは「仕方がない」。
三人はそう確信していた。