二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

3 命の秤 ( No.16 )
日時: 2012/12/25 19:03
名前: tawata ◆Roz37FRKJ6 (ID: t7vTPcg3)



 半円状に並んだ椅子。
 一人の席が空いたそれの内、一つが中央に移動する。
「さて、来るぜ」
 宙に浮かぶ白い鼠——コエムシの声と共に、コックピットから外の景色が映る。
「此処は、カオの地元?」
「そう。多分戦いはパイロットのいる場所で始まるんじゃないかな」
 カイザーの全貌が現れ、地に足を付けると、下敷きとなった家が粉々になる。
 幸いな事にカイザーが出現してまもなく近隣の住民は避難を始めたため、その場で下敷きになった人は誰一人居なかった。
 カイザーの出現の直ぐ後、もう一体の巨体が出現を始める。
 中央にある球体から上下に伸びる突起。
 上方の突起から左右に伸びる関節のない腕。
 さらにその先端にから重く垂れ下がる分銅。
 天秤の様な全貌が明らかとなると下方の細い突起、そして二つの分銅が地に着く。
 分銅は広い範囲、突起は狭い範囲(といっても分銅との比較なだけで突起自体かなりの範囲)を押し潰した。
「背後に病院か……」
 カイザーの真後ろはユウが入院している病院だった。
「万が一があるし、移動しとこう」
 カオはそう言い、カイザーを動かす。
 動きを見せない天秤を一先ずは安全と判断し、病院とは遠く離れた場所にカイザーを移動させる。
「……まだ、動かない?」
 さすがに子供達が怪訝に思い始める。
「先制攻撃出来るじゃねえか。動かないなら速攻で決めちまえ」
 コエムシが言う。
「とりあえず、一旦は……」
 カイザーの胸部が光り、閃光を放つ。
 それは狙い違わず天秤に当たったものの、それらは全て弾かれ街に被弾した。
「あっ!」
 真っ先に声を上げたのはサクだった。
 自分の街に被害が来たのだから、当たり前だろう。
「カオ、気をつけて!」
「……」
 カオは答えず、再びカイザーの胸部に光を溜める。
「なら、あの装甲の隙間に……!」
 閃光が走り、装甲と装甲の合間に突き刺さる。
 僅かながら、損傷はあっただろう。
「これなら効果はあるみたいね」
 接近戦をしないのは慎重さ故か。
 確かに近づきすぎれば戦闘で病院へ被害が行ってしまう可能性も高い。
 かといってレーザーだけで急所を撃ち抜けるほど甘い敵ではない。
「でも、どうしよう……」
 接近戦を躊躇うカオだったが、事態は動いた。
「あっ!」
 巨大な天秤が、回転を始めたのだ。
「待っ——」


 球体の下方に伸びる突起を中心に回転する天秤は分銅を引き摺りつつ、少しずつ速度を上げている。
 分銅はやがて遠心力で外側に伸び、天秤は分銅を振り回す駒のように高速回転し出す。
「っ、あ……」
 既に天秤の真下は押し潰され、轢き潰され、或いはその風圧で吹き飛ばされの惨状となっていた。
「カオ!」
「分かってる!」
 これ以上街に「こんな」被害を出すわけには行かない。
 そう考えたカオはカイザーを動かす。
「このっ!」
 無理だと分かっていて、それでもカオはカイザーの身体中から閃光を放つ。
 しかしそれも大して損傷を与えず、弾かれた閃光は街に降る。
「何やってんだよ! 効かないの分かってるだろ!」
「分、かってる、よっ!」
 天秤は軸を少しずつ移動させ、カイザーに近づいていた。
 それに迎え撃ち、カイザーも近づこうとするも、高速で回転する天秤の分銅はかなりの威力となっており近づくのは困難だ。
「どうにか、しないと……!」
 何かを思いたのか、カオはカイザーを一歩下がらせる。
 そして背中の装甲を剥がして剣を作り出す。
 しかしその剣のリーチでは分銅を潜り抜け、本体に攻撃することは出来ない。
「これでも——」
 カオはそのリーチを考えて尚、剣で攻撃する。
 正攻法ではない。
 大きく振りかぶり、
「喰らえ——っ!」
 剣を力いっぱい、投げた。