二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 3 命の秤 ( No.17 )
- 日時: 2013/01/11 19:20
- 名前: tawata ◆Roz37FRKJ6 (ID: t7vTPcg3)
全力を込めて投げられた剣は回転する分銅の下、回転の軸となる下方の突起を打ち崩した。
天秤は浮遊していたわけではない。
軸を失った駒は回れない。
落下し、大きな振動を起こした天秤は動きを止めた。
「っ……はぁ……!」
カオが一息つく。
倒れた天秤は動く気配がない。
「カオ、今の内に急所を壊せ!」
「……」
サクの言葉は聞こえていたのだろうが、カオは答えない。
代わりに、胸部から放つ閃光で、それを否定した。
「カオ!?」
天秤に当たったものは弾かれ、そもそも当たらなかったものは街に降り注ぐ。
カオの表情は苦痛に歪みながら、しかしその攻撃を止めない。
「何やってんだ! もうレーザーを撃つ必要もないだろ!」
「——このまま人が死ねば、もしかしたら病院に運ばれる死体にユウにマッチする心臓の持ち主がいるかもしれない」
「っ——!?」
「病院に伝えてはいるの。マッチする心臓を持った死体があったらその人の親戚に話をしてほしいって」
巨大怪獣の戦闘による無差別破壊。
それによって死んだ人間の中からでもユウにマッチする心臓がある可能性は低い。
分かっていて尚、カオはこれに賭けている。
パイロットに選ばれるのは一度きり。
我を通し、ユウを救う道は、これきりしかなかった。
まさかサクにこれをしろと言う訳にもいかない。
故に自身が悪者になる道を選んだ。
崩れていく建物に、人が飲み込まれていく。
権力を持った人も、無職でその日の生活もままならない人も。
子供も、大人も。
赤子も、老人も。
差別無く、平等に死んでいく。
それらはカオの意思によってコックピットに映像として鮮明に映し出されていた。
「あ…ぁぁ……」
子供達は目を背ける者もいれば、それを黙って見続ける者もいる。
「……?」
しかし、その死はカオの望んだものではなかった。
ドナーとするには、心臓が無傷である事が必須。
閃光により吹き飛び、砕けた建物に押し潰され。
その大体はドナーとして相応しくない死に方をするものだった。
「これで分かったろ!? こんな事でユウが救われると思うか!?」
「……ぁ」
カオが小さく声を漏らした。
その現実を受け入れたくない。
絶望は、別の悲劇を生む。
「来るぜ」
「え?」
コックピット内の誰が出したとも言えない声がコエムシの言葉を聞き返す。
「っ——カオ!」
その声はカオの起こした惨状を見ることなく、ただ敵に注目していたユズだった。
「あっ!」
驚愕の声は、カオのもの。
軸を失い倒れていた天秤が、折れた部分を軸として再び立ち上がっていた。