二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

1 ココペリ ( No.5 )
日時: 2012/10/15 21:24
名前: tawata ◆Roz37FRKJ6 (ID: t7vTPcg3)



「……え?」
 子供達は揃って、動揺を隠しえなかった。
 暗い部屋。
 上を見れば星のない夜と思える闇。
 立っていながら、立っているという感触のないその足場は果てが無いかの如く延々と続いているように見える。
 十五の椅子が半円に並んだその中央に立つのは昼間、ココペリと名乗った男性だった。
 何故自分達がこんな所に居るのか。
 子供達には一つだけ心当たりがあった。


 その日の夜。
 昼間の事は「良い年したおっさんの悪戯」として気にしない事にした。
 夕食を終え、いつもの様に旅館の大広間で談話をしていた。
 普段ならそれを一時間くらい続け、適当に切り上げて終わる筈だった。
 ふと、窓の方を見たクルがそれを見つけた。
「……おい、何だアレ」
 クルが指差すのは海。
 いや、海ではない。
 海に「立つ」、一つの物体。
「……あんな物さっき無かったよな?」
「でけぇ……五百メートルくらいあるんじゃないか?」
 それは、人型に見えた。
 頭があり、脚があり、腕がある。
 明らかに海に立っているのは異様と言える存在を、子供達はココペリが言っていた言葉と結び繋げた。

 ——迎え撃つのは、巨大なロボット。

 悪戯だと思っていた子供達はその光景を見て、彼の言葉に虚偽が無かった事を悟る。
 これは紛れも無い事実。
 ゲームの、断じて仮想の世界ではない、現実の世界の事なのだと。
 それに全員が気付くと同時、視界が一瞬にして移り変わったのだった。


「良く来たね、君達」
 訳の分からない事実を、子供達が半ば強引に理解した頃、ココペリが口を開く。
 後日、伝えると言っていたゲームのルール。
 それを今説明するというのは、子供達も理解できた。
 しかし、彼らが説明して欲しいのはルールよりも、突然こんな得体の知れない場所に連れてこられた理由、そしてそもそもここは一体どこなのか、という事だった。

「こいつらか?」

 ふと、子供達でも、ココペリでもない誰かの声が聞こえた。
 それは、上から。
 子供達は反射的に声がした方向を見る。
 そして、唖然となった。
 さも当然のように宙に浮くその存在。
 一言で言うなら、白い鼠。
 頭でっかち、というよりは奥行きがあるのは頭のみ。
 紙のようにぺらぺらな体。
 張った頬は薄紅色に染まっている。
 人間とは程遠い異形だった。
「あ、あんたは…?」
 そう聞こうとするクルを無視し、その異形はココペリの周りを回りながら不機嫌そうに言う。
「全員ガキじゃねえか。手ェ抜いたんじゃねえだろうな?」
「きっと大丈夫だ。俺が見つけてきた人材だぞ」
 異形の鼠は知らないだろうが、無論「見つけてきた」とは言っても寝ていた洞窟にやってきた子供達である。
「はっ、まぁ信じてやるよ。俺に関係はねぇし、てめぇの探してきた奴らが今まで勝ってきたんだしな」
 そう言うと今度は子供達を見定めるようにぐるっと回る。
「ガキ共、俺様の名はコエムシ。まぁよろしくな」
 コエムシ、と名乗ったそれはくるくると回りながら暢気に言った。
 子供達は目を白黒させて「鼠が空を飛んで喋っている」という異常を見ている。
 遊園地にいる「夢を与えている二足歩行の鼠」なんていうレベルではない。
 小さいながらもそれは、間違いなく本物の「異常」と呼ぶに相応しかった。