二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

1 ココペリ ( No.8 )
日時: 2012/11/01 21:36
名前: tawata ◆Roz37FRKJ6 (ID: t7vTPcg3)



 上方から飛んできた軍隊の攻撃に対して、ココペリは全く無頓着だった。
 目の前に居る敵を放って戦闘機程度の、装甲に傷一つつけられないものに気にしている場合ではないのだ。
 コックピットには衝撃の一つすら来ていない。
 念じることで操縦をし、それによりこのロボットと意思を疎通しているココペリのみがミサイルの衝突を気付いているため、子供達は気付いていない。
 しかし戦闘機による攻撃は子供達も察知していた。
「あの戦闘機、味方してくれるのか?」
 子供達には自分が乗っているロボットの事は見えないが、敵の姿なら見えている。
 その敵にミサイルが直撃したのを見れば、そうも思うだろう。
「だけど無傷だ……まるで効いていない」
 黒い装甲故、傷が見つからないのではない。
 どこにも、傷なんてついていない。
「あの程度の玩具で傷つくほどヤワなもんじゃねぇんだよ、こいつらは」
 コエムシが軽く言うが、それは子供達にとって衝撃だった。
 兵器の効かないロボット。
 どんな構造なのかなんて知る由すらない。
 戦闘機が一機、二つの巨体の間を通ったとき、敵の胸部から光が走る。
 それは見当違いな方向に飛んでいった。
 通り過ぎていったその一機。
 光は子供達、ココペリ、コエムシ、誰一人名前を知らないとある空尉が乗った戦闘機を撃ち抜いた。
 きっとその空尉は状況を把握できなかっただろう。
 視認出来ないほどの速度の攻撃が、一瞬にして戦闘機のコントロールを奪う。
 真正面から一直線に放たれた光は間違いなくその乗っていた人間諸共貫いた。
 爆炎が夜空を照らす。
 子供達はその光景を呆然と見ていた。
 その一瞬で整理できなかった思考が少しずつ整理されていく。
 敵がレーザーを放った。
 戦闘機を貫いた。
 戦闘機が爆ぜた。
 つまり、その中に居た人間が——
「……あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 何もそれは一人だけが放った叫びではない。
 コックピットが阿鼻叫喚に包まれる。
 寧ろ、初めて今の様な、あまりにもあっさりとした、故に想像しやすい死を目前として誰が平常心で居られようか。
 尚も無表情なココペリとコエムシは余程異常なのだろう。
 続け様、敵のレーザーは残る三機を正確に撃ち抜く。
 子供達は見ていなかっただけマシだろう。
 邪魔者が居なくなったと見て取った敵が再び攻撃態勢を取る。
 鉄塊の如き腕を遠心力に任せて振ってくる。
 それを紙一重で躱した後、剣はその腕を切り裂いた。
 大きく空ぶり、そのまま斬られた腕は勢いに乗ったまま海上を飛んだ。
 陸地の方に行かなかったのは幸いだろう、落ちた場所から津波が巻き起こる。
 その振動で少しながら我に返った子供達は、再び敵を見る。
 いつの間にか片腕を失った敵に、ココペリは止めを刺しに行く。
 飛び掛り、敵を押し倒すとその胸部に剣を突き刺した。
「こいつらには急所がある」
 ココペリはそう言いながらロボットの左腕で腹部の装甲を数枚引き剥がした。
「それは敵によって区々で、どこにあるかは一定じゃない」
 さらにその中に手を突っ込み、内部を破壊していく。
 敵が右腕を振ろうとするが、それを先に察知したココペリが腕を踏みつけ止めた。
「大体は体の奥深く、幾層もの装甲に守られている」
 剣が刺さっている場所の直ぐ下辺りにあった何かを掴み、引っ張り出す。
 小さな——とはいっても数十メートルはあるだろう——球体。
 装甲よろしく、何層もの板で守られている。
「こいつを探し出して——」
 掴んだ腕に力が込められる。

「——潰せ」


 破裂するような音と共に、急所と呼ばれた球体が潰れた。
 隙間から光と煙を噴出しながら手の中に納まるそれの最後は酷く呆気ないものだった。
 頭部に合った仮面の様なものに灯っていた十一個の光が消えていく。
「——これで、終わりだ」
 ココペリの言葉で、子供達は戦いの終わりを悟る。
「次からは君達の番だ。僕はもう次の戦闘からは居られない」
「どうして……?」
「……どうしてもだ」
 答える気は無いらしい。
「後は君達が、地球を守るんだ」
 その言葉に他意は無かった。
 しかし子供達は、
「あぁ、任せろ」
 少なくとも、今はそれを完全に理解してはいなかった。
「コエムシ……後を頼む……」
「あいよ」
 景色が消え、動き出す前の闇に戻る。
 ココペリは周囲、誰も座っていない椅子を見渡す。
「君達……」
 最後にチラと子供達を一瞥し、言う。
「す…」


 次の瞬間には、子供達は旅館の前に居た。
 海には既に敵の姿は無く、今自分達が乗っていたロボットは足から消えていった。
 子供達には見えなかった。
 ロボットの頭部にあった仮面、そこに開く十三の隙間にあった一つの光がゆっくりと消えたことに。
「……今のは……」
 まるで夢。
 しかし、
「夢だと思ってんじゃねえぞ」
 背後に浮いていたコエムシがそれを否定した。
「その内てめえらのマガジンが装填される。そしたら迎えに来るぜ。何かありゃ呼んでくれてもいい」
 表情の変わらない鼠の顔からは何も感じられない。
 ただ、子供達も良い予感はしていなかった。
「俺様はいつでもてめえらの傍にいるからよ」
 言って、コエムシは消えた。
 残された十五人の子供達。
「……何だったの?」
「分からない、けど……」
 その中に、真実を見出した者が少なからず居た。
「これは、ゲームなんかじゃない」
 現実味がありすぎる、先程の死。
 彼らが直に見たわけではないが、戦闘機に乗っていた人間が死んだのは明確だった。
「でも、今度からは俺達が戦うんだろ?」
 それは紛れも無い事実だった。
 戦う上で多くの犠牲が出るだろうし、それに罪悪感を感じない子供達でもない。
「……今みたいに海で戦うときは被害も少なそうだけど……」
 そう、街中で戦うとき。
 どれほどの被害が出るかは安易に想像ができた。
 子供達はそれを天秤に掛ける。
 ゲームではない現実。
 戦うことにより起こる被害と、大勢の人の死。
 地球を守るという使命。
 どちらを重視するかというのは、決めようの無いものだった。
 地球を守るために多くの人を殺すなんて出来るのか。
「……俺は、戦う」
 最初に決意をしたのはクルだった。
「要するに被害を出さなきゃ良いんだろ? 地上で出てきても海まで行けば済むことじゃん!」
 子供達は目を合わせる。
「……それもそうか」
「やろうぜ、皆!」
 ガヤガヤと騒ぎ始める。
 中途半端なれど、それぞれ決意が固まったようだ。
 それがどんな形だろうと。
 今彼らの知っている情報に、戦う意思を削ぐようなものは無かった。

「あの人…最後に……」
「どうしたの? マイヤ」
「あの人、最後に「すまない」って言ったんだと思う……」