二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 『イナGO』-アドニス〜永久欠番のリベロ〜 ( No.20 )
- 日時: 2012/11/15 19:25
- 名前: 優騎那 (ID: hoeZ6M68)
第八話 『鬼』
やべぇ…。
啖呵切って雷門に来たはいいが、今更腰が引けてきた。
サッカー棟ってとこの前でうろうろするばっかり。
いつもは快感なはずの女の子の視線が今日に限ってうっとおしい!!
「尊姉…?」
天馬がびっくりした顔でおれを見ているのに気づいた。
いつからいたんだよお前。
「ホントに来たんだ……」
「悪ぃかよ」
「大いに悪い!!」
おれが昨晩の電話で『雷門に殴り込む』って言葉を天馬は本気にしていなかったらしい。
つーことはあれか?
この野郎、打ち合わせてねぇな!?
「別にいいだろ。おれの勝手だ」
もういい。
こうなりゃ、もう開き直っちまえ。
「で?雷門のアホキャプテンはどこだよ」
「キャプテンなら、休みだよ」
「はぁ?」
おれは、笑ってやった。
そりゃまぁ、派手に、けたたましく高笑いだ。
天馬は驚いた。
おれも驚いた。
自分がこんな風に猟奇的に笑えるなんて、思ってなかった。
「笑わせんな……。休みだぁ?」
「尊姉、どうし……っ!!?」
天馬の顔は血の気が全部引いて蒼白している。
おれが鬼みてぇな顔をしてるからかもな。
いや、十中八九そうだろう。
「じゃぁ、剣城って奴はどこだよ?」
「剣城は、練習には出ないんだ」
「そうかよ……。来た意味ねぇじゃん。
あ〜あ、素直に練習でといた方が楽しかったろうに………。収穫ゼロか。とんだ拍子抜けだ」
右耳に小指を突っ込んでほじくった。
うわ、すげぇでかい耳くそ取れた。
「明日も来る。アホキャプテンと鼻くそシードに話し合わせとけ。これは耳くそだけどな」
指先でさっき取れた耳くそをはじき飛ばした。
呆然とする天馬を尻目に、おれは背を向けて歩き始めた。
おれがしばらく歩くと、何人かがおれとすれ違った。
その時に、確かに聞いた。
「なぁ、知ってるか?和藁尊ってサッカー史上始まって以来の最弱のプレイヤーらしいぜ」
あぁ、その通りだよ。
と言って、おれはそいつの胸ぐらを鷲づかみにした。
鬼の顔でそいつをにらみつけ、おれから視線を離せないようにした。
「おれは…………弱い」
その時生まれて初めて、極寒の吹雪よりも冷酷に、獲物を捕らえた獣のように猟奇的に笑ったことを、おれは一生忘れないだろう。