二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 『イナGO』-アドニス〜永久欠番のリベロ〜 ( No.44 )
日時: 2012/11/19 22:37
名前: 優騎那 (ID: hoeZ6M68)

第十七話 『大切な人に靴を贈ってはいけない』

電車を何本か乗り継いでモンペリエまで来た。
おれ達四人が行きつけのスポーツ用品店がここにある。
その店はいい物を取りそろえているため、近場ですませるより、電車賃費やしてここに来る方がベストだと考えている。

「うぐぅ………」

おれは青を基調とした軽さ重視のスパイクを右手に、黒にダイヤの模様があるピックの掛かりがいいスパイクを左手に持ってにらめっこしている。

「ぐあーー!!!やべぇ!!どっちも気に入った……!!」
「とりあえず店内で騒ぐのやめようぜ。目立ってる」

ラファエルに肩パンを食らった。

「レティシアはどっちがいいと思う?」
「そうね……ミコトのプレーはスピードが命だから、青い方がいいんじゃない?スパイクが重いと微妙にスピードが落ちるでしょ」

もっともなコメント、いただきました!

おれのサッカースタイルはハイスピードカメラにも追いつけないスピードを使う。
相手が気がついた時にはボールを奪い去って、前線にパスを出している。
人一倍、他の選手より足を繊細に使う分、スパイクはあまり重たい物ははけない。

「でも、こっちのダイヤ模様のもいいんじゃないか?ミコトは芝生で転ぶわけにはいかない。
何たって、一秒間に10回以上地面を蹴るんだ。
だったらしっかりかかった方がいいだろ?」
「あ〜!悩む」
「こっちはどう?」

悩むおれをさらに悩まそうとしてか、ラファエルが赤のスパイクをおれに渡してきた。

「履いた感触がほとんど無いくらい軽いんだって。ピックの掛かりも好いよ。デザインもかっこいいし」
「いいとこ取りじゃねぇか!これにする!」

さっきまでの悩みようが嘘のようにおれはそのスパイクを持ってレジに走った。


(ラファエルside)

「いいの?あんなことして」

レティシアがおれに避難するような視線を投げる。

「大切な人に靴を贈ってはいけない……。ラファエルだって知ってるでしょ?靴を贈った相手と自分がどうなるかくらい」
「知ってるよ。知ってるからこそ渡したんだ」
「ラファエル…あなた……まさか……!?」

恐らくレティシアはおれがミコトを嫌って、遠くに行かせたがっているのではないか、と考えているのだろう。

「安心して。君が思っていることは一切考えてないから」

レティシアは少し安堵した表情になる。
まだ不安は抜けきっていないようだったが。

「あのスパイクが、彼女をサッカーの高みへ連れて行ってくれる。そう思ったから」
「会えなくなっても、いいのか?」

パトリスが問う。
彼の声は怒りを含んでいて、それでいて悲しみも帯びていた。

「遠くに行ってしまうだけで、会えなくなるとは言われていない」

目の前にあった黄色のスパイクを手に取り、それを持ってレジに足を向けた。

次、会えた時は、思う存分君と戦いたいよ。
おれが君に敗北を教えてあげる。

———ミコト・カスタニエ

その願いは思ったより早く叶うことになるなんて、この時のおれは思っていなかった。