二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 『イナGO』-アドニス〜永久欠番のリベロ〜 ( No.45 )
- 日時: 2012/11/22 15:07
- 名前: 優騎那 (ID: hoeZ6M68)
第十八話 『つまんねぇ』
ラファエルが選んでくれたスパイクはおれの足に驚くほどフィットしていて、動きやすかった。
裸足で走っているんじゃないかと錯覚してしまいそうになるほど履き心地が無く、かえってそれがおれのプレーに磨きをかけていた。
んで、今日はフランスのサッカーリーグ一回戦。
マルセイユ代表のおれたち"ラ・ピュセル"は予選で相手に1点も与えず余裕で突破し、決勝リーグに駒を進めた。
ダイヤより硬いディフェンス、大砲並みの攻撃力、その両方を兼ね備えた"ラ・ピュセル"は自由人と曲者揃いのチームだ。
「お手々つないで仲良く」というより、「全員てめぇの好きなようにやれ」という理念がある分、個人技でガンガン攻めるのが性に合っている。
例えば、ラファエルとレティシアの二大ストライカーが自分で点を取るように。
味方のフォローは最小限に抑える。
あまり味方を頼らないことで、個々の力が最大限生かされる。
それが"ラ・ピュセル"の特色だ。
〈カスタニエがカット!!ラ・フォルジュにパスがつながった!!〉
パスを出した後に気づいた。
今、カットした相手のMFが意気消沈している。
スコアボードを見れば、5−0で"ラ・ピュセル"が完全にリード。
………はぁ?
この程度かよ、冗談だろ。
シュート確定のホイッスルが鳴った。
ラファエルとレティシアが連携技を使って追加点を取ったようだ。
本気の"ラ・ピュセル"に6点差で、ポテンシャルを保つのが難しいのは分かるが、あきらめずに挑んできて欲しい。
たとえ結局"ラ・ピュセル"が勝つことになってもいい。
どうせ負けるなら、本気で挑んで玉砕して欲しい。
何か……つまんねぇ。
何がって、サッカーが。
勝負が。
試合終了の合図がした。
と同時に両肩に一瞬の重みを感じた。
「やったなミコト!」
パトリスが筋肉質な腕をおれの方に乗っけて笑っていた。
「一回戦突破だぜ?もうちっと素直に喜ぼうよ」
ラファエルが憎たらしく、茶化すようににやにやしている。
「二人とも、ミコトが潰れちゃうって!」
超常識人のレティシアが助け船を出してくれた。
正直、ラファエルとパトリスが肩に乗ってくると殺される気がするほど重い。
「何言ってんのレティシア。そう簡単に潰れたら人類とっくに滅びてるよ」
「分かってるわよそんなこと!!!」
こいつら、いつも通りにバカやっている。
いつもならおれもその中に入ってレティシアを困らせているところなのだが、そんな気分にはなれなかった。
試合終了間際に見た相手のMFの気落ちした表情が頭から離れない。
「つまんねぇ……」
「「「え………?」」」
3人は化け物でも見たような顔だった。
「サッカーの何が楽しいんだよ………」
「おいミコト、何言ってんだ。
サッカーがやりたくてサッカーやってるんだろ?
"愛媛の三戦強"っていう日本人プレイヤーに憧れてサッカーを始めたんだろ?
楽しいからサッカーやってるんじゃないのか?」
パトリスが両腕を広げ、何故、を唱える。
レティシアもだった。
「パトリスの言う通りよ!あなたサッカーが好きなんじゃない!!才能に恵まれない分、パスとカットを極めて一流を目指してるんでしょ!!?」
レティシアがこれまでに聞いたことのない金切り声を上げる。
彼女はどこかしら怒っているようにも見える。
「この試合に出てなかったら、サッカーがつまんねぇって思うこともなかっただろうよ。
おれのカットの所為で相手が戦意喪失してやがる顔を見なけりゃな……。
結局よ、おれはどんなにあがいても負けられねぇ選手なんだよ。
どんなに手ぇ抜いたって敗北を味わえないまま、衰退していくんだよ。
"勝利の王子"なんだよ。
誰でもいいから
………おれを負かせて下さい」
心なしか、ラファエルがおれに敵意を抱いているように見えた。