二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 『イナGO』-アドニス〜リベロ永久欠番〜 ( No.49 )
- 日時: 2012/11/23 12:34
- 名前: 優騎那 (ID: hoeZ6M68)
第十九話 『本当の絶望』
今日も……勝っちまった。
おれ達"ラ・ピュセル"は一回戦を突破して、二回戦もぶっちぎりで勝った。
「さくっと勝って、優勝トロフィー持ってかえるぞ!!」
「「「「「「「おう!!!」」」」」」」
パトリスが渇を入れ、おれ以外のチームメイトが応える。
一回戦でおれの中で何かが確実に変化して、おれは徐々に練習に出なくなった。
"愛媛の三戦強"に憧れて、おれもあんな選手になりてぇって思って始めたサッカー。
でも、おれには才能がなかった。
身体能力で優れているところなんて何一つ無かった。
シュートは何度打っても入らない。
ディフェンスをやってみてはただ突っ立ってるようなもん。
ドリブルなんかさせた日にゃ、簡単にボールを取られちまう。
おれにできることと言ったら、カット、パスだけ。
選手として、おれは何も恵まれていなかった。
それでも、出来ることが一つでもあるならそいつを極めて一流のプレイヤーになろうと誓った。
ただ、サッカーが楽しくて、楽しくてしょうがなかった。
勝てば嬉しかったし、ラファエルやレティシアにパスを出す時の胸の高鳴りといったら、ワクワクするという表現すら生ぬるいほどワクワクした。
今はどうだ?
勝っても何も感じねぇ。
勝ちたいとも思わねぇし。
むしろ負けたいと思ってプレーしている。
試合中あくびばっかしてる。
わざと手ぇ抜いてやっても、他の奴らがおれに変わって勝ちを取りに行く。
おれがどうあがいても、"ラ・ピュセル"が負けることなんてねぇ。
「ミコト」
「あ?」
ラファエルが話しかけてきた。
嫌な予感しかしない。
「話がある。この後付き合って」
「わあった」
———————————————
放課後、ラファエルに連れてこられたのは"ラ・ピュセル"がいつも練習に使っている場所。
つまり、おれとラファエルのホームスタジアムだ。
練習にあまりでなくなってからはずいぶんご無沙汰だったこの場所に、何かを哀れむ情も沸かない。
「んで?誰もいねぇスタジアムに呼び出して何なんだよ。まさか告白でもする気じゃねぇだろうな?」
「君が考えている告白とは違う意味の告白だ。おれと1対1で勝負して欲しい」
「はぁ?」
何を言っているのかさっぱり分からない。
ラファエルとおれが1対1なんかしたら、ラファエルが勝つに決まってんだろ。
大体、おれが言っている"愛の告白"と違う意味の告白って何なんだよ。
「君はドリブルでかかってきて。ディフェンスは本業じゃないけど、おれが君を止める」
「どこのどちらさんだテメェ……」
腹が立ってきた。
頭に紅茶が上るぜ。
ディフェンスがラファエルの本業じゃねぇのは分かってる。
得意じゃねぇもんで挑んでくるたぁ、相当おれをなめ腐ってるってことだよな……!?
まぁ、おれもドリブルは得意じゃねぇから条件は一緒だけどよ。
調子ノンなボケ!!
天才—お前—と素人—おれ—を一緒にすんな!!
「おれを怒らせてぇみてぇだな……樹海に投げ込むぞオラぁ!!」
「がたがたうるさいよ。さっさとかかってこいって」
ったく!
いちいちかんに障る野郎だ。
ドゴォン……!!!
轟音がスタジアムに響いた。
砂煙が上がり、あたりが覆い尽くされた。
視界がクリアになった時、おれはラファエルを抜いていた。
「こんな小さな勝負でも……1対1でも勝っちまうのかよおれは………!!」
悔しくて、悲しくて、涙があふれて止まらねぇ。
絶望だ。