二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 『イナGO』-アドニス〜リベロ永久欠番〜 ( No.50 )
- 日時: 2012/11/24 14:13
- 名前: 優騎那 (ID: hoeZ6M68)
第二十話 『泣いた黄鬼』
悲しくて、涙がどんどんあふれてくる。
一度でもいいから、負けたい。
「もう勝ちたくねぇよ!!!」
「ミコト、それって贅沢すぎやしないかな?」
「はぁ?」
さっきまでの悲しみが一変、怒りに変わった。
「てめぇにゃわからねぇよ。勝つことが当たり前になったら、勝負事が面白くなくなるんだよ」
「それが贅沢だって言ってるのが分からない?
別に、君がサッカーに対してどういう価値観を持ってるのか、そんなものをおれが攻める権利はない。
だけど、おれはスポーツマンである以上、君にはサッカーに真摯に向き合って欲しいんだ」
おれはラファエルの胸ぐらを掴んだ。
ラファエルはギラギラした目でおれを見ている。
「向き合ってるよ!何度も向き合った!!
それで本気でサッカーをやった!!
本気でやればやるほどサッカーがつまんなくなっていくんだよ!!
勝つか負けるかわからねぇ、そんなギリギリのゲームがしたいのに、どうあがいたって相手に大差つけて勝っちまう!!
今の1対1だってそうだろ!!現にお前に勝ってんじゃねぇか!!」
「違う」
「何が違うんだよ!!え!!?行ってみやがれ!!」
「今のは、おれが勝たせたんだ」
「あぁ!?」
腹が立ってしょうがない。
勝ったんじゃなくて、勝たせた?
要するに…手を抜かれたってことか……?
「止めるとか言ってたくせに……勝たせただぁ!!?調子ノンなボケ!!!」
「やるまえからわかってたよ。おれなんかがミコトのスピードについて行けるはずがないって」
「ふざけんな……」
自分の声が震えているのが分かった。
「ふざけんなふざけんなふざけんな!!!!サッカーで手ぇ抜かれることが、おれにとってどれだけの屈辱か、知らねぇわけじゃあるめぇ!!!」
「知っている。だから、次戦うことになった時は一切手は抜かない。全力で君をつぶしにかかる」
ラファエルは怯むことなくおれを見つめてくる。
その目には、情熱にぎらついていた。
「…………」
ラファエルの胸ぐらから手を離した。
血が上りすぎていた頭が冷えた。
「ミコト、おれが天才なら、君は鬼才だ」
「鬼才……?」
「そう。例えばパスだ。
おれはいつもミコトのアシストを受ける時にいつも思うことがある。
足に吸い付いてくる感じがするんだ。
あんなにに正確なパスが出せる人はそうそういない。何度もカットが出来る選手なんて、もっといない」
ラファエルは両腕の中におれを閉じこめた。
振り払えばおれなら簡単に抜け出せるだろうに、抗おうとしなかったのは、心のどこかで誰かに抱きしめられたかったからなのかもしれない。
「確かに神は、君に何も与えなかったかもしれない。
でも、鬼が君に力をくれたんだ。
No.1スピーダーとして活躍できる驚異的な脚力をね」
「………………!!」
忘れていた。
他人になくて、自分にあるものを。
負けたいと望みすぎるあまり、自分の個性を忘れていた。
自分を忘れていた。
「ラファエル…ごめん。パスカットと、アシストには誰にも負けねぇ自信あったのに……とんでもねぇスピードを出せる脚力が自分の個性だってのに……。
おれ、自分のこと忘れかけてた……!!」
「思い出してくれたら、いいんだよ。
今のおれじゃ、ミコトの速さには到底追いつけない。
おれが君のスピードについて行けるようになったら、おれが君に敗北を教えてあげる。それまで、もう少しだけ…待っててくれるかな……?」
ラファエルはすっとおれを離した。
再び頬を伝う涙。
目を赤くはれるくらいこすって、ラファエルの右手に、自分の右手を差し出した。
「……ったりめぇだ!!!早く追いつけ!!!」
不細工な泣き顔で、ラファエルとハイタッチを交わした。
『泣いた赤鬼』という童話があるだろう?
ストーリーはどうだったか知らないが、おれがその本の作者ならこうタイトルを付けた。
今、おれは泣いている。
おれの髪は黄色。
ラファエルはおれのことを"鬼才"だと、そう言った。
だから、
‘泣いた黄鬼’