二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第一幕 ( No.1 )
- 日時: 2012/11/04 16:40
- 名前: ゆずり ◆qXlC6lTe92 (ID: gwrG8cb2)
彼女の金髪はとてもよく目立つ。
そんな彼女の名を折笠いずみ。いつもいつだって、太陽に照らされぎらぎらと光る金色の頭に、シルバーアクセサリーが彼女の耳や指や首を飾っていた。
彼女を知らない人から見れば、彼女は“不良”にしか見えないのであろう。確かに彼女は外見こそ“不良”だが、彼女は“不良”のように喧嘩などすることはなかったし、先生に反抗したこともなかった。言うならば彼女は“見かけだけの無害な不良”であったのだ。
授業にはしっかりとでて、頬杖をつきつつ窓の外をぼんやりと眺め、先生に当てられてはきちんと正しい回答を答える。休み時間のたびにふらりと教室からいなくなり、屋上へと足を運ぶ。
彼女はいつだって一人だった。彼女はきっと一人が好きなのだろう、周りは誰だってそう思った。それは、明らかに不良としかとれない外見をする彼女になど関わりたくもないという、愚かな人々の言い訳でもあった。
けれど、違った。彼女は一人が好きなのではない。孤高でもない。“孤独”だったのだ。しかし周りはそれに気づかずに、どんどん彼女から遠ざかっていくのだ。
彼女の金髪はよく目立つ。けれど誰も気づかない。彼女の金髪の意味を。
——“ねえ。髪を金色にしたら、きっと気づいてくれるよね。私はここにいるって、わかってくれるよね”
人々は、気づかない。
浮遊した上辺の偽善
「聞いた?折笠いずみ、また喧嘩して勝ったんだって。次はここら一帯の不良のボスをボコボコにしたらしーよ」
「えーマジ?折笠いずみって凄いよね。なんか喧嘩負けなしって感じで。関わりたくないよねー」
「うんうん。喧嘩ばっかしてて、恐いよねー」
——誤解だ。と、私は溜息をついた。私の視線の先には、きゃぴきゃぴとどこから得たのかもわからない噂を楽しそうに話すクラスメイトの姿があった。
またありもしない事実が学校中へ広まり、私の評判が悪くなるのか。もう散々だ。私はもう一度深く息を吐いた。
教室の中にエアコンなどという素晴らしい機械は設置されていないので、息を吐くたびにそれは白く染まる。今は冬。私はブレザーの袖から見える指に小さく息を吹きかける。
「うっわ折笠いずみと目があったんだけど!ちょー恐い!」
「え、マジで!?折笠いずみと目があったら事故にあうっていうジンクスあるらしーよ?」
「きゃーっ!ちょっとやめてよ!恐いじゃんかー!」
甲高い声をあげ、きゃぴきゃぴと女の子らしく騒ぐその姿に、私は顔を顰めた。どこをどうしたらあんなに高い声がでるのだろうと、逆に不思議である。冷えた指先で、自らの喉を押さえて声を小さく出してみるが、やはり高い声は出そうにない。諦めて、ポケットに手を突っ込んだ。
「折笠さんおはよう」
そこに、可愛らしい女の子の声。振り向けば、クラスメイトの笹川京子がその声に似合う可愛らしい笑顔を浮かべ、私を見つめていた。
「…………おはよ」
低く、小さい挨拶を返せば、笹川さんはにっこりと微笑んで「またね」と自らの席に帰っていった。
すると、いつも笹川さんと一緒に学校に来ている黒川さんが笹川さんにこそこそと耳打ちをしているのが見えた。会話の節々に、私の名前が小さく出ているのを聞いて、ああ私のことかと思う。
多分、「折笠いずみと関わるな」といっているのだろう。笹川さんは、不思議そうな顔で終始黒川さんを見つめていた。
「…………あほらし、」
私がそう呟いて机に伏せると、隣の席から「ヒィッ!折笠さんが喋った!」と情けない叫び声が聞こえた。沢田の声だった。